著者
山名 一平 川元 俊二 永尾 修二
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.30, no.4, pp.599-602, 2010-05-31 (Released:2010-07-23)
参考文献数
18

症例は55歳女性。アルカリ性洗剤をコップ1杯誤飲し,上腹部痛を主訴に来院した。上部消化管内視鏡検査にて食道下部から胃にかけて黒色調の腐食性変化を認め,腐食性食道炎胃炎と診断した。絶飲食,抗生剤投与,プロトンポンプ阻害剤投与で治療開始後,第11病日,突然の吐血,Hbの低下と炎症反応の再上昇を認めた。出血制御が困難で穿孔の可能性があったため,翌日,開腹手術を行った。開腹所見では膿性腹水の貯留と胃体部大弯側に広範囲な胃壁の菲薄化と壊死性病変を認めた。食道に壊死の所見はなく,胃全摘および空腸Roux-en Y再建術を施行した。病理組織学的検査で胃体部大弯に90×110mmにわたる胃壁全層の壊死巣を認めた。腐食性食道炎胃炎に対して保存的治療を行う場合,早期に制御困難な出血や穿孔の併発をきたす重篤例もあるため,慎重な経過観察の下に外科的手術を含めた治療選択の可能性を考慮する必要がある。
著者
川元 俊二 稲田 一雄 金丸 隆幸 永尾 修二 落合 亮二 内田 清久 中里 貴浩 海江田 令次
出版者
一般社団法人 日本輸血・細胞治療学会
雑誌
日本輸血細胞治療学会誌 (ISSN:18813011)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.31-37, 2008 (Released:2008-12-19)
参考文献数
14
被引用文献数
2 2

(背景)輸血を受け入れないエホバの証人の患者に対する治療の対応や指針が検討され,現在に至っている.(目的)患者の意思決定を尊重する原則に立って治療を推進していく上で,インフォームドコンセント(IC)の方法とそれを実践する為に必要な他科との医療連携について検討する.(対象と方法)過去十年間にエホバの証人の患者113名(小児3名),128例におこなったICの方法と他科との医療連携の内容を示した.ICの方法は同種輸血拒否と受け入れ可能な代替療法の許容範囲の確認,無輸血治療に伴う合併症の内容の理解と同意であった.医療連携には麻酔科医,放射線科医,消化器内視鏡医との連携が含まれた.(結果と成績)ICの過程で医療者側が治療適応外と認めた症例は無かった.治療症例は110名,125症例で手術治療107例,放射線学的観血治療10例,内視鏡的治療4例,放射線照射化学療法17例をおこなった.緊急手術および治療は15例だった.患者全員が同種血輸血の受け入れを拒否する意思を示したが,4名を除く106名が代替療法として閉鎖回路で連結された希釈式自己血および回収式自己血輸血や血液分画の投与を受け入れた.自己血輸血を29例(23%)に施行し,術中術後の管理を通して,患者の意思により術前に代替治療の適用を定めた許容範囲を超えた症例は無く,無輸血治療が本来の治療の根治性を阻害することはなかった.また手術在院死亡や重篤な合併症の併発を認めなかった.(結論)ICの徹底と院内医療連携による無輸血治療の実践によって個々の患者に対する適切な医療環境と治療成績を提供できた.