著者
川口 貴久 土屋 大洋
出版者
日本公共政策学会
雑誌
公共政策研究 (ISSN:21865868)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.40-48, 2019-12-10 (Released:2021-10-02)
参考文献数
19

公正な選挙の実現は民主主義の根幹である。しかし,2016年米大統領選挙に代表されるように,外国からの選挙介入・選挙干渉(election interference)によって,選挙の公正性・信頼性が疑われる事態が生じた。本稿は2016年米大統領選挙を事例に,デジタル時代の選挙介入がもたらす政治不信(political distrust)の構造を明らかにする。現時点で確認されたロシアによる2016年米大統領選挙への干渉の手法は,(1)サイバー攻撃による政党・候補者に関する機密情報の窃取と暴露,(2)政府系メディアやソーシャルネットワーク(SNS)等での偽情報流布や政治広告,(3)投開票等の選挙インフラに対するサイバー攻撃に大別される。2016年米大統領選挙への介入がもたらした不信について,次の点が指摘できる。第一に,外国政府による選挙介入は候補者や政策等の「特定対象」および選挙や民主主義そのものといった「政治制度」の双方に対して不信を拡大させるのであった。そして,「特定対象」への不信は「政治制度」への不信に転じる可能性があり,逆もまた然りである。第二に,選挙活動や投開票等の選挙プロセスがデジタルインフラに依存度を高めるにつれ,サイバー空間やSNSを通じた選挙介入は,(1)攻撃者の匿名性の問題,(2)介入の規模と有権者の曝露量,(3)個人データに基づくターゲティング等の観点で,介入の効果を向上させるものであった。