著者
爲我井 慎之介
出版者
日本公共政策学会
雑誌
公共政策研究 (ISSN:21865868)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.116-130, 2015-12-25 (Released:2019-06-08)
参考文献数
52

2000年以降,我が国大都市制度の骨格は,自治体の大規模化と事務権限の移譲を一括りにする「概括的な政策」へと転換した。そこで本稿では,制度下にある政令指定都市(政令市)の規模や中核性を数値化し,それらの関連性から,制度の直面する課題を明らかにする。はじめに,予備作業として戦後日本の大都市制度(特別市及び政令市制度)の成立過程で生じた対立構造を整理し,政令市の設計概念を把握した。次に,全国に20ある政令市を対象に,人ロ・面積などの都市規模とその中核性を示す変数を投入して主成分分析を行い,それらの4つの特性に合成した。さらに,主成分得点を求め,政令市を複数のクラスターとして類型化した。先行研究の知見が示すように,自治体の区画と背景にある社会的実態のかい離は,大都市問題の本質である。分析結果は,制度の単一性にも関わらず,政令市相互の関係性が極めてかい離している状況を示した。また,後発型政令市とは,外形的には地域の大規模な中核都市だが,周辺地域を圧倒するほどの都市の中核性や一体性を欠いていることを明らかにした。本来,大都市制度の適用範囲は,背景にある大都市社会を無視しては論じえないものである。新たな大都市の枠組みの構築にあたっては,より大都市の都市属性を踏まえた制度化が不可欠であろう。
著者
善教 将大 坂本 治也
出版者
日本公共政策学会
雑誌
公共政策研究 (ISSN:21865868)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.96-107, 2017-11-30 (Released:2019-06-08)
参考文献数
35
被引用文献数
3

本稿の目的は,何が寄付行動を促進する要因なのかを,全国の有権者を対象とするサーベイ実験を通じて明らかにすることである。先行研究は寄付行動の規定要因に関する重要な知見を蓄積してきたが,他方でデモグラフィーなど個人的特性との関連性への傾斜や推定結果に存在する内生性や欠落変数バイアスへの対処が不十分といった問題を抱える。さらにこれらの問題を解決可能な実験的手法に基づく既往研究にも,代表性の低いデータを用いている点など課題が山積している。本稿では,これら先行研究の問題を解決可能な実験的手法を用いて,寄付行動の規定要因を分析する。具体的には,全国の有権者を対象とする無作為化要因実験(randomized factorial survey experiment; RFSE)によって,寄付の有無と寄付金額に何が影響を与えるのかを明らかにする。実験の結果明らかになった知見は次の2点である。第1に寄付を募る際,他者の1人あたりの寄付金額表示額が少なく,寄付金を管理運営費にあてる割合が小さく,物的・金銭的インセンティブを付加した返礼をしない方が,寄付確率が高くなる。第2に寄付を募る主体がNPO法人以外であり,寄付金を管理運営費にあてる割合が小さく,控除対象にできる方が,寄付金額が高くなる。これら本稿の知見は,先行研究に疑義を呈しうるものであると同時に,実際の政策展開にもいかすことが可能なものである。
著者
善教 将大 坂本 治也
出版者
日本公共政策学会
雑誌
公共政策研究 (ISSN:21865868)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.96-107, 2017

<p>本稿の目的は,何が寄付行動を促進する要因なのかを,全国の有権者を対象とするサーベイ実験を通じて明らかにすることである。先行研究は寄付行動の規定要因に関する重要な知見を蓄積してきたが,他方でデモグラフィーなど個人的特性との関連性への傾斜や推定結果に存在する内生性や欠落変数バイアスへの対処が不十分といった問題を抱える。さらにこれらの問題を解決可能な実験的手法に基づく既往研究にも,代表性の低いデータを用いている点など課題が山積している。本稿では,これら先行研究の問題を解決可能な実験的手法を用いて,寄付行動の規定要因を分析する。具体的には,全国の有権者を対象とする無作為化要因実験(randomized factorial survey experiment; RFSE)によって,寄付の有無と寄付金額に何が影響を与えるのかを明らかにする。実験の結果明らかになった知見は次の2点である。第1に寄付を募る際,他者の1人あたりの寄付金額表示額が少なく,寄付金を管理運営費にあてる割合が小さく,物的・金銭的インセンティブを付加した返礼をしない方が,寄付確率が高くなる。第2に寄付を募る主体がNPO法人以外であり,寄付金を管理運営費にあてる割合が小さく,控除対象にできる方が,寄付金額が高くなる。これら本稿の知見は,先行研究に疑義を呈しうるものであると同時に,実際の政策展開にもいかすことが可能なものである。</p>
著者
梅田 次郎
出版者
日本公共政策学会
雑誌
公共政策 (ISSN:27582345)
巻号頁・発行日
vol.2000, pp.2000-1-009, 2000 (Released:2023-01-17)

1995年から取り組んでいる三重県の行政改革は,従来からの改革手法をとらず,事務事業評価システムの導入をその根幹に据えるという前例のないものであった。筆者は,当初からその実務上の責任者として携わってきた。本稿では,三重県における事務事業評価システムの導入の経過を内側からたどることによって,まず官僚組織に内在する組織的抵抗とそれを突き破ろうとする職員の自発的な変革力とのせめぎ合いの状況を検証した。さらにシステムの進化とも言うべき発展段階での課題や「挑戦する役所」の悩みを整理し,政策評価を実効あらしめるために必要な基盤は何かについて言及した。第一に信念あるリーダーの存在であるが,次に実務上欠かすことのできない推進力は,官僚組織の内部に潜んでいる自発的な変革力であり,これを潰さずにいかに育てるか,本稿で述べている官僚組織の病理現象の改善なくして政策評価の実効は期待できないと考えている。
著者
大石 眞
出版者
日本公共政策学会
雑誌
公共政策研究 (ISSN:21865868)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.7-16, 2006-12-10 (Released:2019-03-18)
参考文献数
29

内閣の補助機関である内閣法制局は,「国制知」の有力な担い手であり,明治憲法時代から第2次世界大戦後の憲法・憲法附属法などの制定過程を経て今日にいたるまで,人事を含むさまざまな形で国政秩序の形成,運用に寄与する機能を果たしている。法制局の所掌事務は,主として法令案の審査を行う審査事務と法律問題に関する意見事務とに分かれるが,法律問題に関する国会答弁・政府統一見解の作成も,その重要な職務の1つに数えられる。法制局の審査事務は,内閣提出法案・政令案を合せると,年間平均して650件に及んでいるが,とくに各省庁が立案する内閣提出法案については,国民の権利義務との関係を含む憲法適合性や法体系全体との整合性などの観点から厳しい審査が行われる。憲法訴訟において法律が違憲とされる事例が少ないのは,その当然の結果である。他方,かつて意見事務の主要な部分を占めていたのは,法令の解釈問題に関する各省庁からの照会に対して文書で回答する法制意見であり,政府・行政部内では最高裁判所の判例に準ずる機能をもち,その意味で国政秩序の形成・運用に大きな貢献をしてきた。しかし,戦後法制の定着・国会審議の活性化・憲法裁判例の増加といった状況を背景として,法制意見は減少し,代わって口頭意見回答が増加している。法制局が所掌事務を行うに当たって,学界等の権威者から助言と協力を受けるため,1960年以来,参与会の制度が設けられているが,その実質的影響力などは未だよくわからない。
著者
宮脇 昇
出版者
日本公共政策学会
雑誌
公共政策研究 (ISSN:21865868)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.14-21, 2019-12-10 (Released:2021-10-02)
参考文献数
22
被引用文献数
1

公共政策過程の実施主体は,実施対象からの信頼を獲得することが望ましい。しかし,主体に対する,あるいは主体間の信頼は,アプリオリに存在するわけではない。なぜなら立案主体,決定過程の参加主体と決定主体,実施主体それぞれの意思や調整をめぐる情報は,明示的なものであれ,黙示的なものであれ,完備情報化・完全情報化されないためである。さらに国際公共政策は,主権国家による外交政策決定過程を交えるため,一層のこと不完備・不完全情報の社会を対象にする。本稿ではトラスト(信頼)の先行研究を瞥見し,決定過程の完備情報・完全情報化を1つの理念型として想定する。その後,主体別(国内・国際)にトラストの構図を整理したうえで,完備情報社会に抗う複雑性・専門性と完全情報社会を浸食する時限性の要素を抽出し,国際・国内公共政策の決定過程におけるトラストのあり方について最後に提示する。
著者
渡邊 有希乃
出版者
日本公共政策学会
雑誌
公共政策研究 (ISSN:21865868)
巻号頁・発行日
vol.20, pp.162-177, 2020-12-10 (Released:2021-10-02)
参考文献数
38

日本では1990年代以降,入札の競争性向上を目的とした公共調達制度改革が進行した。しかし国士交通省直轄工事入札における一件当たり応札数は減少傾向にあり,入札の顕在的競争性は低く保たれている。なぜ行政組織は,改革下でもなおこうした制度運用を行うのか。本稿では,むしろ応札数の増大に合理性を見出す多くの先行研究が問題外としてきた「制度運用の取引費用」に焦点を当てることで,手続的合理性の観点から応札数抑制の優位性を検討する。公共工事調達は,低価格・高品質の追求という目標を伴った,事業者選定を巡る行政組織の意思決定活動である。だが,これらトレードオフ関係にある二目標を同時に考慮し,両者の適切なバランスのもとに唯一最適の事業者を決定するには膨大な取引費用がかかり,現実上の行政組織がこれを負担するのは難しい。しかし,事業者の施主能力をふまえた品質判断に基づいて参入可能な事業者を限定し,それを通過した事業者間で競争入札を行わせる,つまり,まずは品質・次に価格といった形で両価値を逐次的に扱えば,意思決定にかかる取引費用は削減される。即ち応札数抑制は,低価格・高品質という目標を同時に追求することの難しさを緩和するための戦略がとられていることの表出として説明され,このとき,事業者選定の手続的合理性は向上していると推論される。なお以上の妥当性は,国士交通省直轄工事の入札結果データを用いた計量分析によって,実証された。
著者
二宮 祐
出版者
日本公共政策学会
雑誌
公共政策研究 (ISSN:21865868)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.136-146, 2006-12-10 (Released:2019-03-18)
参考文献数
36

従来の教育政策研究の多くは,保守陣営と革新陣営との対立や教育分野の陣営と教育分野外の陣営との対立によって政策過程を把握してきた。しかし,産学連携に関連する政策はこのような対立枠組みでは把握されず,政策過程研究は不十分である。そこで,1970年代の国立の技術科学大学2校の設立を事例として検討する。分析枠組みとして,サバティア(Paul A. Sabatier)による唱道連携フレームを用いる。このフレームは,「政策サブシステム」内部における「政策志向学習」か,長期間にわたる政策変化に影響を及ぼすことに着目するものである。技術科学大学設立の「政染サブシステム」には,文部省や自由民主党のみならず,国立高等専門学校協会や日本経営者団体連盟が参人していた。そして,「政策サブシステム」内部において,各アクターは信念システムを変化させることによって政策形成を導いた。この政策は,複線型の学制を意図していた高等専門学校を再び単線型の進学コースに取り込む点で重要てあった。従来の政策形成が文部省の一貫した方針の下にあるという理解は,1970年代の少なくとも事例の1つにおいては,修正の必要が存在する。
著者
飯塚 俊太郎 堤 麻衣
出版者
日本公共政策学会
雑誌
公共政策研究 (ISSN:21865868)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.104-115, 2015-12-25 (Released:2019-06-08)
参考文献数
74

本稿の目的は,「構想日本」というシンクタンクが,自ら考案した「事業仕分け」の国政における採用を実現した過程を解明することを通じ,シンクタンクの役割や影響を論じることにある。2009年の民主党を中心とする連立政権への政権交代を象徴する出来事となった事業仕分けは,構想日本が発案し,その全面的関与のもとに2002年から全国の地方自治体で実施を積み重ねてきた手法である。それは,政権交代後間もなく,内閣府に設置された行政刷新会議を司令塔とする官邸主導のプロジェクトとして,国政にて実施される運びとなった。本稿は,シンクタンクの役割と影響に着目して,事業仕分けが国政にて採用された過程を分析する。シンクタンクが実際の政策過程に及ぼした役割や影響の具体的考察は,それ自体稀有と言える。その上で,以下のような示唆を得る。従来のシンクタンク論の通説的見解では,自民党長期政権とそれに伴う行政・官僚主導の政策形成の在り方が日本のシンクタンクの脆弱性や未熟性の要因として指摘されてきた。それに対し,本稿の分析は,政権交代という出来事を機に,一シンクタンクの構想であった事業仕分けが国政の中枢にて採用された事例を提示する。また,そうした事象が起きた背景として,政権交代が契機であったことはもとより,1990年代以降の政治改革・行政改革を通じた制度的な変化により内閣機能の強化や官邸主導への流れが醸成されてきたという背景を仮説的に示す。今後の日本のシンクタンク研究では,このような政治環境の変動を,シンクタンクを取り巻く環境の変容として考慮する必要があることが示唆される。
著者
一瀬 敏弘
出版者
日本公共政策学会
雑誌
公共政策研究 (ISSN:21865868)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.109-124, 2014

<p>本稿では,地方採用警察官の技能形成促進策を明らかにするため,政令指定都市を擁する1万人以上の大規模警察本部の人事データに基づき,その昇進構造を検証することを目的とした。人事データと警察官僚の聞きとり調査による実証分析で得られた知見は,次のとおりである。まず,地方採用警察官が昇進可能な最高階級である警視長(部長職)への昇進には,fast track効果がみられ,早く昇進した者ほど国家公務員(地方警務官:警視長・警視正)へ転身する傾向がみられた。そして,少し遅れて昇進したグループには,警視(警察署長)や警部(警察署課長)への昇進可能性が提示される一方で,その他多くの警察官には,警部補(係長)への昇進可能性が提示される。これらの結果からは,全ての警察官に技能形成へのインセンティブを付与するような人事政策が展開されているとも解釈できる。つまり,自治体警察の昇進構造は,全てのノンキャリア警察官の努力を引き出すよう設計され,その人的リソースを最大動員するための選抜システムが内在されているとも言えるだろう。</p>
著者
坪郷 賓
出版者
日本公共政策学会
雑誌
公共政策研究 (ISSN:21865868)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.21-32, 2019-05-20 (Released:2021-10-02)
参考文献数
48

本稿は,日本における市民社会の形成と課題について述べ,市民自治と市民参加の原像と理論を確認し,1990年代以後の市民参加と自治体再構築の課題について述べる。第1に,市民自治の営みに関して,1970年代から2010年代に至るまで,それぞれの時期の特徴的な市民活動を挙げながら,日本における市民社会の形成を概観する。さらに,市民活動を6類型に類型化することにより,市民社会の強化の課題について述べる。特に,市民活動のための資金の循環の仕組みを作ることと,市民活動団体によるアドボカシー活動が重要である。第2に,1970年代の市民自治と市民参加の原像と理論について述べる。この時期の市民参加の理論は,市民参加が自治体改革と政策革新を必要とすること,市民参加が運動の制度化と制度の運動化によりダイナミズムを獲得することを述べている。第3に,1970年代と比較して,1990年代以降は市民参加の環境が変化するとともに,市民参加の手法が多様化している。しかし,2000年の分権改革以後,市民自治体など自治体の再構築が試みられているが,自治体議会改革はまだ始動したところであり,自治体議会における決算・事業評価・予算のサイクルを確立し,市民参加を試みる段階である。
著者
関谷 昇
出版者
日本公共政策学会
雑誌
公共政策研究 (ISSN:21865868)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.44-58, 2004-12-20 (Released:2022-01-18)

社会契約説という考え方は,個人主体を準拠点にして法と政治との応答関係を律する一つの規範原理である。近年はポストモダニズムの影響によって,そのt体性の構図や法学的思考の論理が批判されつつあるが,社会契約説の原理的可能性は依然として失われておらず,それどころかその原理性は法や政治政策にとって改めて問い直しの契機を発し続けていると考えられる。本稿は,社会契約説の現代的意義を改めて模索することを目的としている。社会契約説を,「作為」の論理という形で政治社会の発生の原理的基礎づけとして把えるならば,それは個々人が自発的に政治社会を営む民t主義原理を強調することを意味し,政治参加や政治過程の活性化を構成原理として弁証することにつながっていく。それはさらに,実践的な局面において,多元的な合意形成の充実を伴いながら,市民社会論として応用されてもいる。これに対して社会契約説の現代的復権は,所与の政治社会の帰結の原理的評価として再構成されるものであり,構成原理に対して制約原理にシフトしていると考えられる。それは法学的思考を背景とした配分的正義の導出を意味しており,それに甚づく国家権力の正当性を弁証することに応用されている。そこからさらに,リベラリズム的正義論として批判的に再構成されてもいるのである。本稿では,社会契約説が前者の側面から後者の側面へ転回した点を踏まえながら,そこに残されている課題を見出すことによって,今後の法学や政策学に必要とされる規範原理について検討を加えるものである。
著者
藤本 吉則
出版者
日本公共政策学会
雑誌
公共政策研究 (ISSN:21865868)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.59-67, 2019-12-10 (Released:2021-10-02)
参考文献数
26

本稿は,電子政府,透明性,信頼の関係について論じる。日本は1990年代後半から電子政府の構築に取り組んだ。「透明性の高い政府」「信頼される行政」を実現することが目標として掲げられ,国民の電子的情報アクセス環境の整備が進められた。国民が政府活動を知ることは健全な民主制のためには必要不可欠のことであり,電子政府によりそのことを促進することが期待されている。電子政府と透明性,信頼の関係について,既存の研究から信頼と関係があると推測されている (1)業務効率化,パフォーマンス,(2)電子的な国民向け行政サービス,(3)市民へのエンパワーメントの三点に注目して概観する。また,電子政府の機能のうち,政府による情報提供に焦点をあて,(1)信頼と不確実性,(2)情報の非対称性,(3)参加とオープンデータについて考察を行う。情報の非対称性が解消されることで国民と政府の間に信頼関係が構築されることが期待できる。また,オープンデータの提供など情報量の増加,質の変化により,主体的な参加が促され,社会的信頼の強化につながる。電子政府,特に電子的な情報提供によって,国民と政府の間の信頼関係に好影響を与える可能性がある。一方で,電子政府による情報提供には限界があり,情報処理能力,情報への永続的なアクセス保障,情報の任意提供など検討を要する事項が存在する。
著者
伊藤 正次
出版者
日本公共政策学会
雑誌
公共政策研究 (ISSN:21865868)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.43-55, 2006-12-10 (Released:2019-03-18)
参考文献数
13

本稿は,総合科学技術会議の運用状況を分析することを通じて,橋本行革を検証するための視座を拡大することを目的とする。橋本行革によって内閣府重要政策会議として創設された総合科学技術会議は,科学技術政策という特定分野に関し,予算・計画・評価といった手段を用いながら「総合調整」機能を発揮することが期待されている。このような「特定総合調整機構」とも呼ぶべき総合科学技術会議の運用状況について,本稿では,科学技術予算の優先順位付けを通じた「予算による調整」,第3期科学技術基本計画策定を通じた「計画による調整」という2つの側面から分析を試みた。その結果,総合科学技術会議は,行政資源の「選択と集中」の実効性という面で,調整機能に各種の限界を抱えているものの,「特定総合調整機構」としての制度化が進んでいること,しかし他方で,予算編成・計画策定と評価活動との連結という点では課題も残されていることが確認された。
著者
藤本 吉則
出版者
日本公共政策学会
雑誌
公共政策研究 (ISSN:21865868)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.94-103, 2010-12-25 (Released:2019-06-08)
参考文献数
42

本稿は,2000年前後から各国で導入が始まった電子政府の議論を基に,電子申請の利用件数が伸び悩んでいることや住民基本台帳ネットワークの効用が実感できないことなど,日本の電子政府の普及が円滑に進んでいないことの要因の分析,類型化を行い,これからの公共部門におけるICT利用の可能性を検討する。類型化にあたっては,電子政府の進捗段階ごとに阻害要因によって与えられる影響力が異なることを踏まえ,双方向の特徴を活用した電子政府の段階に焦点をあて,とくにデータの蓄積とその活用といったデータベースの視点を取り入れ,分析を試みる。検討を行った類型化を日本の電子政府に当てはめてみると,技術的な要因による障害より,組織的・制度的要因による影響が強いことが示される。そのため,行政改革やより有益な価値のある情報創出などに電子政府を効果的に用いるため,情報システムの導人だけではなく,制度・組織の抜本的改革をも視野に人れた電子政府の取組みの検討を進める必要がある。
著者
一瀬 敏弘
出版者
日本公共政策学会
雑誌
公共政策研究 (ISSN:21865868)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.109-124, 2014-12-20 (Released:2019-06-08)
参考文献数
34

本稿では,地方採用警察官の技能形成促進策を明らかにするため,政令指定都市を擁する1万人以上の大規模警察本部の人事データに基づき,その昇進構造を検証することを目的とした。人事データと警察官僚の聞きとり調査による実証分析で得られた知見は,次のとおりである。まず,地方採用警察官が昇進可能な最高階級である警視長(部長職)への昇進には,fast track効果がみられ,早く昇進した者ほど国家公務員(地方警務官:警視長・警視正)へ転身する傾向がみられた。そして,少し遅れて昇進したグループには,警視(警察署長)や警部(警察署課長)への昇進可能性が提示される一方で,その他多くの警察官には,警部補(係長)への昇進可能性が提示される。これらの結果からは,全ての警察官に技能形成へのインセンティブを付与するような人事政策が展開されているとも解釈できる。つまり,自治体警察の昇進構造は,全てのノンキャリア警察官の努力を引き出すよう設計され,その人的リソースを最大動員するための選抜システムが内在されているとも言えるだろう。
著者
新川 達郎
出版者
日本公共政策学会
雑誌
公共政策研究 (ISSN:21865868)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.64-77, 2015-12-25 (Released:2019-06-08)
参考文献数
25

日本公共政策学会(以下,本学会という)では,公共政策学教育の在り方について,その基準あるいは標準の検討を重ねてきた。公共政策学やその教育の定義については多様な見解があるとしても,共通して参照可能な基準は探索できるのではないかという見通しのもとに作業を進めることとした。そのために本学会として「公共政策教育の基準に関する研究会」(以下,研究会という)を設置し,2013年度と2014年度の2年間にわたって検討を行ってきた。その検討の経過においては,研究会メンバーの議論のみならず本学会の年次研究会における報告を行うことも含めて,本学会会員諸氏の積極的な参加と助言を頂戴した。その最終報告書は,2015年秋季の本学会理事会に提出された。そこでは公共政策学の学問体系を踏まえながら,日本の学士教育の実情に沿った公共政策学教育の基準を発見するべく努めた。本論文においては,「公共政策教育の基準」に関する検討の経緯を振り返りながら,その中で研究会に加わった一人である筆者として改めて「公共政策学」の「教育」の標準をどのように考えればよいのか,その「参照基準」について,その背景,意義,課題について,検討することとしたい(1)。