著者
長谷川 貞雄 川尻 矗大
出版者
国立極地研究所
雑誌
南極資料 (ISSN:00857289)
巻号頁・発行日
vol.20, pp.1688-1706, 1964-02

1961年8月11日,昭和基地北方洋上に生じた金環食の際,基地において電離層観測を実施したので,その結果を報告する.この日食時には太陽高度が非常に低く,しかも若干電離層擾乱を伴っていたために,電離層の下部領域即ちE層,F_1層は観測し得なかったが,F_2領域については明らかに日食の影響が認められた.この領域について得られた主な結果を次に示す.1.F_2領域の電子消滅は主に付着作用によって行なわれ,その付着係数Bは高度300km付近において,1.5〜2.0×10^<-4>sec^<-1>の値が得られた.2.この付着係数Bの値を用いて求めた理論計算曲線は,食甚時まで観測値とよく一致するが,復円時には異常な電子密度増加が認められて,理論曲線とは一致しなかった.この原因として,荷電微粒子群の進入による電離を考え,日食期間のその電子生成率q'を求めると,平均70cm^<-3>sec^<-1>の値が得られた.3.付着係数Bの値を各高度に対して求め,それによりscale heightを求めた結果,高度300km付近におけるF_2領域においては,酸素分子0_2に対する電子付着作用を仮定して,約30kmであった.