著者
平野 久 荒川 憲昭 川崎 博史 高橋 枝里 増石 有佑 岩船 裕子 岡山 明子 井野 洋子 山中 結子
出版者
日本臨床プロテオーム研究会
雑誌
日本臨床プロテオーム研究会要旨集
巻号頁・発行日
vol.2007, pp.23, 2007

質量分析装置(MS)を用いて疾患関連タンパク質を高感度、高精度かつハイスループットで検出・同定できる方法や、検出された疾患関連タンパク質の動態、機能や機能ネットワークを解析し、バイオマーカーや創薬ターゲットとしての有効性を評価する方法の開発研究が発展してきた。特に、トリプルステージ四重極MSや四重極リニアイオントラップ(LIT)MSを用いてバイオマーカーや翻訳後修飾を受けたペプチドを選択的に検出できる Multiple Reaction Monitoring(MRM)法、LIT MSを用いてペプチドのN-Cα結合を切断できる電子移動解離(ETD)法、MSと組み合わせてタンパク質の定量的ショットガン分析を行うことができるiTRAQ法の発達などには注目すべきものがある。また、翻訳後修飾を受けたタンパク質を網羅的に検出するためのプロテインチップはかなり実用的なものになってきた。演者らが開発したDLC基板を利用したプロテインチップに電気泳動で分離されたタンパク質を固定化することにより、チップ上で修飾タンパク質の検出、MSによる同定が可能になった。演者らは、iTRAQやプロテインチップなどの技術の導入を図りながら卵巣癌や川崎病などに関連するタンパク質の解析を行っている。卵巣癌については、癌組織や培養細胞で特異的に存在量が変動するタンパク質を検出・同定することができた。そして、mRNAやタンパク質の発現解析によって同定されたタンパク質と卵巣癌との関連を確証した。これまでに中空繊維膜を用いて試料を前処理した後、ショットガン質量分析を行うことによって3千種類ほどの血漿タンパク質を検出・同定できることを示したが、この方法を用いて卵巣癌組織で特異的に検出されたタンパク質を血液中で同定することができた。また、iTRAQ法によっても血液中の卵巣癌関連タンパク質を定量的に分析できることがわかった。
著者
平野 久 川崎 博史
出版者
横浜市立大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2006

本研究は、遺伝子組換え食品の安全性を評価するため、遺伝子組換え生物におけるタンパク質の変動を漏れなく解析することができるプロテオーム解析技術を確立することを目的とする。本年度は、質量分析装置によって定量的にディファレンシャルディスプレイ分析ができるiTRAQ法を用いて形質転換体で特異的に発現するタンパク質を効率的に検出できるかどうかを調べた。まず、ベニザケのI型成長ホルモン(GH)遺伝子をマイクロインジェクション法によってアマゴに導入し、体長が非形質転換体の約10倍になった形質転換体を得た。このGH遺伝子組換えアマゴのF1及びF2個体を作出し、外来GH遺伝子が生殖細胞に取り込まれた個体を育成した。このGH遺伝子組換えアマゴとその兄弟にあたる非組換え体のタンパク質組成の違いをiTRAQ法で調べた。iTRAQ法は、質量の異なるタグを含む試薬を異なる個体から抽出したタンパク質のプロテアーゼ消化物に別々に標識した後、各個体からの標識ペプチドを混合し、MS/MSモードの質量分析装置で分析する方法である。タグの質量スペクトルから異なる個体の特定のタンパク質の量比を、また、ペプチド部分のMS/MS解析によってアミノ酸配列を明らかにすることができる。そして、アミノ酸配列からデータベース検索によってタンパク質を同定することができる。iTRAQ法による分析の結果、形質転換体において転写・翻訳などのタンパク質合成に関わるタンパク質複合体やペントースリン酸経路の酵素群の発現が上昇していること、また、解糖系酵素群の発現が低下していることを確認することができた。iTRAQ法は、形質転換体におけるタンパク質発現の質的及び量的変動を容易に捉えることができる優れた方法であると考えられた。