著者
大和 裕幸 松本 三和夫 小野塚 知二 安達 裕之 橋本 毅彦 鈴木 淳
出版者
東京大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2007 (Released:2007-04-01)

東大総長・海軍技術中将 平賀譲氏の残された40,000点にのぼる資料をディジタル化して公開準備をおこなってきた。本研究ではディジタル化を完了し、東大附属図書館のディジタルライブラリーで公開すること、さらに東京大学などで平賀譲展を開催し、成果を一般に広め、さらにその図録をまとめることにした。その結果、(1)平賀譲文書のディジタルアーカイブを東大図書館に開設した。URLは以下のようである。http://rarebook.dl.itc.u-tokyo.ac.jp/hiraga/ (2)平賀譲展-高生から東大総長まで-を東京大学駒場キャンパスで平成20年3月から5月にかけて開催し、あわせて講演会も行った。来場者は2,000名を超えた。また、呉市海事歴史科学館で開催された「平賀譲展」にも本研究での成果を反映して協力した。 (3)図録「平賀譲 名軍艦デザイナーの足跡をたどる」を文藝春秋社から刊行した。平賀譲の資料が多くの研究者の目に触れることが出来るようになったが、その意義は大きい。共同研究者は、経済史、社会学、日本史、技術史、造船史、工学と多方面にわたっており、様々な見地から新しい資料に取り組み、今後の研究のポイントと手法について検討する。具体的なテーマとしては、(1)軍艦建造の過程(計画から訓令・進水・竣工まで)から見た設計学への寄与、(2)イギリス製軍艦の建造報告を主とした艦船技術導入・移転の分析、(3)軍艦建造予算(材料費・工費)の推移をめぐる研究の進展、(4)平賀の講義ノートの復刻・解析、などがあげられた。また今後の課題として、(1)書誌情報の追加作業、(2)ポータルサイトの検討とインプリメンテーション、(3)講義ノートのディジタル化、(4)個別研究テーマの検討などが考えられる。
著者
米井 力也 平田 由美
出版者
大阪大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2005 (Released:2005-04-01)

(1)本年度は、昨年度に引き続き、『紅の豚』『ハウルの動く城』等の宮崎駿監督作品における〈女性表象〉について、日本語版と英語吹替版を対照させながら考察した結果、英語吹替版では〈自立した強い女性〉として描かれる傾向が強いことが判明した。ここには日本語から英語への翻訳の問題だけではなく、二つの文化におけるジェンダー表象の差異が反映していることを認識する必要があるだろう。(2)また、『もののけ姫』をはじめとする日本の中世を舞台に描かれた作品をとりあげ、「〈侍〉の表象」というテーマで、時代劇アニメーションで用いられる日本語の特性を分析したうえで、映像翻訳を介する〈侍〉のイメージの受容の問題についても考察した。〈侍〉の表象をとりあげたのは、時代劇の言葉を〈役割語〉と捉え、〈侍〉とその周辺の諸階層が用いる日本語が実際にその時代に話されたものではなく、「時代劇」というジャンルで形成されたものとして再検討することが必要だろうと考えたからである。(3)『もののけ姫』以外には、源頼光の四天王の一人、坂田公時が女性主人公という設定である『怪童丸』を分析対象にとりあげた。近年の時代劇アニメーションのいくつかに登場する女性と同様、この坂田公時も『風の谷のナウシカ』のナウシカに通じる〈戦士〉の側面を持っているため、〈戦う女性ヒーロー〉の一例として〈女性表象〉の変遷のなかに位置づけることも可能である。
著者
吉川 茂 矢向 正人 芦川 紀子
出版者
九州大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2003 (Released:2003-04-01)

ガウディによれば、サクラダファミリア大聖堂の全体は1つの巨大な楽器として構想されていた。鐘の音楽と協会における礼拝との間での音響的なバランスをとるべく鐘楼の下部構造は一種のマフラー(消音器)になっている。生誕の門の左側(外から見て)の塔(ツインタワーの形をしている)に着目して、そのほぼ下半分の基本構造を1/25縮尺模型で再現し、上部に音源(「鐘」の代用)を置いて音の伝搬特性について実験した。音源スピーカーから14〜96kHzの広帯域信号を入力し、音響レベルを測定したところ、身廊部では約35dBの減衰があり、隣の塔ではさらに約10dBの減衰が見られた。上部構造からの放射に適合する鐘は細長い形をしたチューブラベル・タイプである。ピッチを決める主要な振動モードは(1,4)であり、両端では円形断面を保ちながら左右の5本(G5,A5,B5,C6,D6にチューニングされている)のベルに関する実験から確認した。ただし、ピッチがいくつかの部分音の寄与によって決まるのではなく、たった1つの振動スペクトルによって決まるので複数本のチューブラベルを組み合わせるときの効果は期待できない。生誕の門のファッサードにおける彫刻群「天使の合唱隊」などから予想される音楽的シーンは「復活祭の鐘の音と合唱の声」とか「エオルスの琴の音を伴奏とする妖精たちの合唱」などである。一方、塔、チューブラベル、螺旋階段などは完結性を意味するポジティブな円環であるとともに「樹木」のように閉ざされることのない「有魂」の「器官」を象徴している。サグラダファミリア大聖堂は鐘および合唱の音楽と合体することによって初めて「母なる自然の創造力と養育力(ゲーテの言う自然の治癒力)」を体現でき、「ガウディの聖堂」にふさわしくなると推測できる。
著者
足立 文彦 門脇 正行
出版者
島根大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2005 (Released:2005-04-01)

1日当たりの潅水量を同一にした条件で、潅水の頻度と時間を変化させた3つの潅水方法でサツマイモ品種テラスライム(丸葉黄葉)とベニアズマを栽培し、植被展開速度と物質生産を比較した。島根大学生物資源科学部3号館屋上に設置した高さ0.1mの木枠内に屋上緑化用軽量土壌をいれ栽培圃場とした。供試サツマイモ品種を5月下旬に、栽植密度2.5株/m^2で移植した。潅水は点滴潅水チューブに潅水タイマーを用いて日当たり約8mm/dayとなるよう与えた。朝1回潅水を行う区(朝1回区)、朝と昼に行う区(朝昼区)、約20分間隔に1分間潅水を行う区(常時潅水区)の3つの潅水処理を行った。植被展開速度をデジタルカメラによる画像解析法で求めるとともに、8月下旬から熱収支式各項(Rn、LE、H、G)、地温、気孔伝導度、土層毎の体積土壌水分含量を測定し、収穫期にバイオマス調査を行った。いずれのサツマイモ品種も葉面積が拡大する時期の植被展開速度は朝1回区に比較し、朝昼区、常時潅水区で大きく、常時潅水区が早期に植被を確立した。収穫期のバイオマス量も朝昼区、常時潅水区は朝1回区に比較して大きかった。朝1回区の気孔伝導度は午前中高いものの午後に急激に減少したのに対して、朝昼区、常時潅水区の気孔伝導度は午後も高く維持されていた。このことは、朝1回区の畝の表層土壌水分含量が午後に低下することに加えて、サツマイモの根長密度が表層に多く、下層には少ない根系特性を持つことから水分ストレスが生じ、物質生産が抑制されたものと示唆された。従って、日中の畝表層の土壌水分含量が高く維持されるよう、頻繁に灌水を行うことにより、日蒸発量程度に使用水量を限定した場合でもサツマイモの植被展開と熱低減が効率化できると結論された。
著者
松本 伸示 佐藤 真 森 秀樹
出版者
兵庫教育大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2005 (Released:2005-04-01)

19年度は,兵庫県加東市の小学校で低学年児童を対象として絵本の「読み聞かせ」活動を取り入れた日本版の「哲学」授業を実践した。これは,これまでIAPCで開発されたテキストを用いてきたが,低学年児童を対象するには討論の題材が身近であること,さらには,低学年児童の読解力の発達を考慮にいれたことによる.また,これまで「総合的な学習の時間」を活用して「哲学」授業をおこなってきたが,今年度は子どもたちにもっと哲学的討論を身近なものとするため,学校のカリキュラムに縛られることのない放課後の学童保育の時間を活用することも考えてみた.これにより教室という物理的,心理的な条件に縛られることなく子どもたちは自由に哲学的討論を楽しむことができた.さらに,兵庫教育大学附属中学校においても選択科目の時間を活用し日本版の「哲学」カリキュラムを開発して授業実践した。これはイギリスのNEWSWISEを手がかりにニュースを教材としたP4Cの手法を参考としつつ,討論テーマを生徒の身のまわりの出来事から取り上げた実践研究である.この実践ではより哲学的な要素を含んで討論が展開されるようにカリキュラムを設定した.また,17年度に収集した韓国の資料をもとに思考力育成を図るための副読本「お母さんとともに創る日記」を完成させた。これらの基礎データによって日本においても「哲学」授業が可能であり,児童・生徒の思考力の育成につながっていくことを明らかにした。
著者
杉山 あかし
出版者
九州大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2003 (Released:2003-04-01)

本研究の目的は、おたく文化系コンベンションの実態を明らかにすることである。本年度は最終年として、研究の取りまとめを行なうとともに、研究成果報告書を作成した。本研究で主に取材・調査対象としたのは、同人誌即売会の「コミックマーケット」と造形物即売会の「ワンダーフェスティバル」である。この二つのコンベンションを中心に、(1)日本におけるおたく文化系コンベンションの歴史と展開をあとづけ、(2)現在のコンベンションの実態を明らかにし、そして、(3)おたく文化系コンベンションの社会的意味について考察した。研究成果報告書の目次を以下に掲げる。第1章 おたく文化系コンベンションについて1.「おたく文化系コンベンション」と「おたく文化」2.おたく文化系コンベンションの展開(1)同人誌即売会3.おたく文化系コンベンションの展開(2)造形物関係4.大衆文化生産社会と「おたく文化系コンベンション」第2章 おたく文化系コンベンション調査1.「ワンフェス」実地調査2.「コミックマーケット」一般参加者調査2.1.調査の実施と回収2.2.調査結果(1)回答者の基本属性2.3.調査結果(2)同人誌即売会参加状況2.4.調査結果(3)同人誌購入状況2.5.調査結果(4)コミックマーケットの魅力など2.6.結びに換えて第3章 そして"解放"とは本研究の当初予定した方法論はカルチュラル・スタディーズ的エスノグラフィー作成であったが、調査対象(コミックマーケット)からの好意的な協力によって、数量的な社会調査の実施が可能となり、調査方法を変更した。これまでこの種の調査の対象となって来なかったおたく文化系コンベンションの実態を数量的データの形で明らかにすることができた。
著者
盛屋 邦彦 長岡 健 山本 文 小野田 哲弥
出版者
産業能率大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2006 (Released:2006-04-01)

今年度の研究作業としては主に昨年度後半から学習ポートフォリオシステム(CoCoCo)を試験的に実際の授業に適用した。適用した授業は昨年度から合計すると全部で7科目となった。その中から学生の利用ログを用いて学習の分析を行った。その結果、学生がポートフォリオ(レポート)を作成する上で、みずからが考えなければならないものについては、他の学生のポートフォリオを参照する傾向があることをみいだした。このことはCoCoCoがゆるやかな(学生間の関係が強くない)協調学習の環境として効果的に働いたものとして評価できる。このことについては学会への発表および論文としてまとめた(経営情報学会春季全国研究発表大会、産業能率大学紀要)。またCoCoCoシステムについては改良を行い、応答時間の改善を図り、システムの利点や機能・アーキテクチャについて、実際の開発に携わった学生が学会にて発表を行った(CIEC PC Conference学生論文賞受賞)。CoCoCoについての学生側からの意見についてはアンケートを実施することで収集し、現在の学生が(1)どのような環境で学習をするのか適切か?(2)電子ポートフォリオはどのように形成されるか?(3)今後、システムとしてどのような機能を入れるべきかについて分析・考察した。その結果、電子ポートフォリオは学生みずからの過去の内容、及び他の学生の内容を参照するという点でCoCoCoのようなSNSを利用することは効果的であることが再確認された。また機能的には、現時点での学生の考え方をリアルタイムに教員ヘフィードバックできる機構が必要であることがわかった。今後は、このリアルタイムでの教員へのフィードバック機能として、アンケート機能をCoCoCoに付加していくことを検討している。また、より学生間の関係が強い、いわゆるグループワークに適した環境も追加していくことを考えている。
著者
前田 文彬
出版者
立教大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2004 (Released:2004-04-01)

1.ファイナンス理論の中核であるブラック・ショールズの公式に代替し得る新しいファイナンス・モデルの構築を行う。古典力学を応用したブラック・ショールズの公式から導かれる金融派生商品の価格は、市場実勢値から乖離することが多く、実務上大きな問題になっている。このため、新たに量子力学の概念を応用した理論モデルを構築し、理論値と市場実勢値の乖離(アノマリ現象)という錯綜した事態の打開を図ることにした。2.3年度は、初年度及び2年度に続き、古典力学をベースとしたブラック・ショールズ・モデルの限界を明らかにすることにし、数学(確率論)及び物理学(量子力学)を利用して研究を行った。その結果、金融資産を物理量として把握した場合、確率空間における振る舞いを明確にしなければ論理的な整合性を確保できないことが判明した。さらに分析を進め、金融資産を量子化して考える場合、金融資産の存在する空間は複素ヒルベルト空間に拡張しなければならないが、この場合量子力学特有の不確定性原理をどう取り扱うかという難問を解決しなければならないことも明らかになった。3.金融時系列を分析するための手法として、統計学的なアプローチ(ARCHモデル-不均一分散を持つ時系列回帰分析)を応用し、フランスの株価インデックス、イギリスの株式オプション、米国の短・長期金利の実証分析を行った。統計学的アプローチでは、正常時における分散が不均一な金融時系列の分析には十分だが、非常時における分析には必ずしも十分な成果を収めることはできない。そこで、非常時における金融時系列の分析のために量子数を複数化したモデルを開発し、実証分析を行った結果、分析後の金融時系列の残差がうまく定常時系列へ収斂することを確認することができた。4.米国の債券市場の分析にあたっては、ブラック・ショールズ型の運動方程式を量子化するのではなく、始点と終点に渡る経路の全てを分析する場の量子論(経路積分)を応用したモデルをシンガポール国立大学のBaaquie教授と共同で開発した。株価と債券の挙動の違いに着目したものだが、他の金融資産モデルよりもより市場実勢に近い分析を行うことができた。5.今後の課題として、量子化の手法としては量子力学と場の量子論に加え、金融商品の漸近挙動を明らかにするマリアバン解析の応用がある。これは、正常時における金融商品のより確度の高い挙動を明らかにするものだが、量子論の応用とともに欧米日の金融資本市場で実証分析を行い、金融実務界への貢献をすることにした。より詳細な実証分析については、文部科学省科学研究費基盤研究として申請済みである。
著者
小田 秀典 藤井 宏 秋山 英三
出版者
京都産業大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2006 (Released:2006-04-01)

研究計画に従って、ATR脳イメージングセンターで不確実性下での意思決定(100パーセントで4000円受けとる選択肢と50パーセントで8000円受けとる選択肢のいずれを選ぶかなど)の脳活動計測実験を実施した。さらに当初の計画にはなかった時間選好の意思決定(今日5000円受けとる選択肢と1週間後に6000円受けとる選択肢のいずれを選ぶかなど)の実験を不確実性下での意思決定と比較可能なかたちで実施した。これは標準理論に対して同様のアノマリー(90パーセントと80パーセントは程度の差だが100パーセントは特別に重視される、明日と明後日は程度の差だが今日は特別に重視される)が観察されている2つを比較することで、不確実性下での意思決定の特徴をはっきりさせるためである。現時点での暫定的結論は、将来の報酬を選択するとき、被験者は(現在の自分から将来の自分への)セルフ・プロジェクションと理解される脳領域をいっそう活発化させ、不確実性な報酬を選択するとき、被験者は計算と評価と理解される脳領域を活発化させるというものである。さらに実験が必要であるが、時間選好と不確実性下の意思決定が異なる脳活動に基づくこと、および時間選好がセルフ・プロジェクションと関係することは脳科学にとっても経済学にとっても示唆するところが大きい。経済理論の観点からは、とくに一貫する個人の意思決定ではなく、現在の自分と将来の自分とのゲームとして時間選好を理論化することに現実性のあることを示唆する。以上の(2008年3月の学会ではじめて報告された)本研究の主要な成果に加え、脳科学の基礎的理論とゲーム的状況(他人の意思決定を推測しなければいけないとき)の脳活動についての研究を実施して発表した。
著者
山本 一登 相馬 充 谷川 清隆
出版者
国立天文台
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2007 (Released:2007-04-01)

本研究は神田茂氏の「日本天文史料」をXMLでマークアップ化を行い、XMLデータベースを用いて実装し、Webアプリケーションとして公開することおよび、マークアップの仕様を公開することが目的である。平成20年度は、「日本天文史料」の文献のデータモデルの策定とデータ校正作業の完了を目指し、作業を進めた。データ校正作業は中西華氏に従事していただき、校正作業に関してはほぼ完了することができた。データモデルの策定は山本と中西華氏と共同で議論しながら策定を進めた。YAML形式でデータを作成することで、入力作業の簡易化を目指して策定を進めたが、文献構造の形態が予想以上にさまざまあり、細かい部分のモデルの策定作業が残ってしまった。データ入力作業は継続して続けていき完成を目指す予定である。日食帯の描画ツールについては実装も完了し、公開に向けてサーバの準備中である。この描画ツールの最大の特徴は地球自転変動パラメータΔTだけでなく潮汐補正値もパラメータとして変化させて日食帯を描画させることができることである。7月7〜11日にオーストラリアで開催された第6回東洋天文学史国際会議にて谷川が「春秋時代の日出・日入帯食」について、相馬が「7世紀の日本の天文学」についてそれぞれ発表を行った。また、12月19、20日に同志社大学・今出川校地にて第2回天文学史研究会および談天の会第41回例会を開催した。関西方面のみならず、遠方からの参加者も多くあり、とても有意義な研究会となった。この研究会の記録は集録として発行した。
著者
DAVID Askew
出版者
立命館アジア太平洋大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2005 (Released:2005-04-01)

本年度は、研究代表者の所属研究機関が、代表者の海外出張をなかなか許可しようとしないという問題が勃発し、海外における文献蒐集などを必要とする学術研究を行うには大変厳しい環境になってきた。とはいうものの、日本国内でできることを中心にして、研究はそれなりにはかどることができた。本研究プロジェクト「探偵物語・人類学・捜査科学--『法と文学』の接点に関する一考察」において、本年度は、前年度の研究成果を踏まえつつ、それに一層磨きをかけることを第一の目的としてきた。前年度中に得た結論を論文として形にし、残る課題の解明に努めつつ、新たに出てきた文献や、残る課題の解明に役立つと思われる文献の収集・解読に努めてきた。とりわけロンブローゾの学説を中心に犯罪人類学を検証して、またシャーロック・ホームズに焦点を絞って、コナン・ドイルの小説が、指紋という一科学捜査技法の正当化に果たした役割を検討することをしてきたので、この研究をさらに磨くよう心がけた。第二は、研究成果そのもの、または今後の課題を明らかにしていくことを目指して、二つの研究論文の執筆に専念してきた。一つは、犯罪人類学の小説化の理論的再構成を論証するものであり、二つは、これまでの英米圏の研究成果を踏まえつつ、小説という言説空間における犯罪捜査技法の正当化について考察を加え、研究成果を公にするものである。査読にはそれなりの時間は必要であるが、いずれは出版される運びとなろう。
著者
小野 芳朗 小野 芳朗 水藤 寛 毛利 紫乃
出版者
岡山大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2004 (Released:2004-04-01)

化学物質の影響は、子供が感受性が高い。その曝露シナリオのモニタリング指標として、子供の集積する小学校の桜の葉を選んだ。桜はほとんどの小学校に植えられている。岡山市内19の小学校に許可を得て、4月から11月までの間、桜葉を採取した。得られた葉を、ひとつはチトクロームP450誘導を知るEROD活性を測定した。これらの測定に係わり、葉中の繊維を溶かすなどのテクニックを導入した。EROD活性は概して道路近傍の小学校に多い傾向がみられたが、有意な差をみることは難しかった。そこで、多環芳香族炭化水素類(Poly Aromatic Hydrocarbon : PAH)を測定した。対象とした小学校は、岡山市内を横断する国道2号線(片側3車線)をはじめ、主な国道沿いの立地や、市南部の工場地帯の立地、山間部の立地など特性をもたせた。その結果、概して道路近傍の小学校の桜葉は、PAHに汚染されていることがわかった。また南部工場地域の小学校のPAHが最も高く、移動発生源である自動車よりも国連発生源である工場の影響が強いことが示唆された。また、PAHの由来をオイルと燃料由来に分けて検討した結果、燃料由来の比量が大きく、大気中の排ガス発生源のものを桜葉が吸収していたことが明らかになった。さらに、これら桜の葉との相関をとるために、桜木の下の土壌、当該小学校における大気をサンプラーによって収集かつ近傍道路において道路近傍の大気、じんあいを採取し、これらのPAHと桜葉中のPAHの相関を求めたが、明確な相関はでず、桜葉中のPAHは、これら複数の要因の複合により形成されていることが示唆された。
著者
駒野 宏人
出版者
岩手医科大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2005 (Released:2005-04-01)

本研究は、ミクログリアの持つ血液脳関門(BBB:blood-brain barder)通過機能に関与する分子を同定し、その実態を明らかにすることである。作年度は、マウス由来株化ミクログリアRa2[澤田(名古屋大学)により樹立]よりレトロウイルスベクターとするcDNAライブラリーを作成した。本年度は、トランスマイグレイションアッセイ(平成17年度確立)を用いて、作成したcDNAライブラリーより、ミクログリアの血液脳関門通過機能に関与する分子のスクリーニングを実施した。まず、BBBを構成している内皮細胞株(MBEC4細胞:Drug Metab.Phamacokin.19:270、2004)をトランスウェルの上部チャンバーのメンベレン上、(孔サイズ:3μM)に3日間培養し、上部と下部チャンバーとの抵抗値がほぼ200Ωになることを確認した。その後、cDNAで感染させたRa2(全細胞数5X10^6細胞、1ウェルあたり4x10^4細胞)を上部チャンバーに培養した。さらに培養3日後、下部チャンバーに移行したRa2を数えた。その結果、下部チャンバーに移行したRa2細胞数は、cDNAライブラリー感染依存に高いウェルも存在したが、現在、正確に、それに関与する分子の同定にまでは至らなかった。これは、スクリーニングの培養時間が長く、その間、MBEC4細胞が部分的に破損し、ベクター感染Ra2細胞(background)においても、下部チャンバーに移行する細胞数が多数認められたため、関与する分子の同定を困難にしていると考えられた。現在、培養時間を短縮するためのスクリーニング条件をより詳細に検討を進めている。
著者
浜本 隆志 R.F Wittkamp 熊野 建 大島 薫 森 貴史 浜本 隆志
出版者
関西大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2005 (Released:2005-04-01)

最終年度にあたる本年は、ジュヴァルツヴァルト地方の冬至祭礼調査、宮崎県高千穂町での仮面を用いる冬至祭の儀礼調査、秋田県男鹿地方での新年の祭礼であるナマハゲおよびその周辺地域の祭礼調査といった、これまでの複数年度の調査をもとに、分析・考察をおこなった。ドイツ語圏を中心としたヨーロッパの通過儀礼と、日本を中心としたアジアの通過儀礼は意外と類似する部分が多いという認識に到達することになったが、そうした場合は、たいていがキリスト教文化の浸透以前、あるいはあまり浸透していない西欧の地域や地方のものであることが多いようである。あらためて、現在の世界各地で発生している文化摩擦や紛争の主な要因のひとつが、結局のところ、多神教と一神教の対立に起因しているのではないかという推測に蓋然性をみいだすこととなった。したがって、多神教的思考と一神教的思考というこの二項対立、たとえば、それは中沢新一が主張するところの対象性思考と非対象性思考の対立といえるのだが、これを乗り越えるために必要な思想や考え方を、世界の別の地域や住民たちのものにみいだすにしろ、まったく新たに創造していくにしろ、それともこれらのことが可能ではないときにはやはり、このふたつの対立を統合していくべき方法論を将来、模索していかなければならないだろう。本研究に従事した研究者の個別の研究成果によってなされている主張が、現時点における考察の結果の一部ではあるが、これらの成果によって、萌芽研究という本研究の役割は果たされたと思われる。
著者
斎藤 誠
出版者
東京大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2006 (Released:2006-04-01)

科学技術にかかわる法的諸問題を発見し、解決するための科学技術法という法分野の体系形成において、重要な領域を占める責任法領域の体系化を目的とする本研究において、研究最終年度である本年度は、民法改正論議における、一般不法行為法の改正論の動向を踏まえながら、科学技術の利用に起因する事故における、民事・行政責任の成立要件につき、検討を行い、以下のような新たな知見を得ることができた。(1)科学技術を利用する組織において、安全性の確保に向けて、どのような内部組織を置き、どのような手続を踏まえたかは、民事責任の成立要件としての「過失」の判断において大きな要素になるのみならず、利用にあたっての許認可等をなした行政において、そのような内部組織・手続の整備を許認可の要件として要求していたかどうかが、行政責任の成立要件としての「違法」判断の基準となる。(2)安全性確保のための内部組織については、科学技術の利用自体にあたる内部部局からの分離・独立性の確保が重要であり、この点に関しては、地方自治体における専門的な監査組織・機能の行政・議会からの独立性を強めるべきであるという議論が参考になる。(3)内部的な組織・手続の整備を、過失要件の具体化という形で明文で規定するかどうかについては、科学技術にかかわる諸活動において、無過失責任を特別法で規定している分野(原子力損害賠償)における取扱いにも考慮した上で、一般法としての規定化が検討に値する。
著者
竹内 洋 木村 洋二 雨宮 俊彦 吉岡 至
出版者
関西大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2006 (Released:2006-04-01)

本年度は、新聞の見出しに着目した荷重分析の理論的・方法論的検討を行い、以下の3つのテーマに関する報道を対象として取り上げて分析した。また、多重媒介コミュニケーションモデルの理論的精緻化を図り、ネツトワークにおける信頼と不信の荷重変換ダイナミックスについて検討を加えた。1.地下鉄サリン事件とオウム真理教問題:本分析では、見出しにおける「サリン」と「オウム」という語句の出現頻度と文字面積の大きさを計測し、得られた各値を通時的な荷重グラフに表示することから、朝日・産経・毎日・読売新聞の報道における各紙の視点の違いを明らかにした。さらに、この2つのキーワードの配置に応じて5段階の評点を与え、サリン事件とオウム真理教との意味的な結びつきの強さを定量的に分析した。2.戦後日本における「いじめ」報道:1945〜2007年までの朝日新聞データベースを用い、現在、教育問題として語られる「いじめ」が、戦後から現在に至るまでの報道によって誘導され形成された言説(=「世論」)であることを明らかにし、その時系列的変遷を考察した。「いじめ」と「教育」に関連する意味ネットワークを相互比較することによって、分析におけるキーワードの選定とその意義が示された。3.東アジア問題-東シナ海ガス田の開発:2004年の中国による東シナ海ガス田開発に関する報道をもとに、日中両国の国益に関わる問題について、「ガス」という語を手がかりとして荷重分析を行うことにより、暗黙のうちに示された「国益の優先」と「日中友好」という各紙の立場の違いを明らかにした。記事の見出しに特化した本分析法は、簡便化による分析の即応性が見出された。本研究によって、客観報道の神話に隠れた荷重バイアスを視覚・データ化し、社会的現実がメディアの重みづけ報道によって相互構築されていく過程を実証的に分析する新しい手法の有効性を検証することができた。
著者
松本 曜
出版者
神戸大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2005 (Released:2005-04-01)

今年は,研究の最後の年度として,研究成果のまとめと発表に重点を置いた.大きな研究課題の一つとして掲げたのは「二つの単語が反義語と感じられるのはどういうときか」という問いであった.これに関しては,「方向性の対立と肯定・否定の対立という二つの認知的な対立のいずれかが感じられるときである」という答えを得た.この立場から反義語の再分類を行い,従来の分類(相補性や関係性に基づくもの)よりも有意義な分類ができることが示された.また,もう一つの課題である「反義語らしさを決めている要因は何か」という問いに関しては,「方向性と肯定・否定性が語の意味に顕著な形で含まれているかどうかによる」,という答えを得た.この点に関しては,日本語と英語における実験を行うことによって検証することができた.具体的には,語の意味の中に反対方向の方向性がはっきりと含まれていると感じられる単語ペアほど,また,肯定的か否定的かがはっきりしている単語ペアほど,意味が反対であると判断される度合いが高いことが示された.これらの成果は,学会発表論文と雑誌論文,さらには未発表の論文にまとめた.また,関連する問題を多く含む類義性に関する論文も雑誌に出版した.研究の過程で作った反義性に関する文献リストなどの資料はwebpageに公開している.
著者
宇田 暢秀 久能 和夫 小野 幸生 青木 隆平
出版者
九州大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2003 (Released:2003-04-01)

炭素繊維強化樹脂(CFRP)を用いた水素貯蔵用高圧タンクの研究が国内外で進められているが、CFRP積層板の層間強度が低いために、き裂が発生すると水素漏れを引き起こすことが懸念されている。そこで、CFRP積層板の層間にカーボンナノチューブ(CNT)のような優れた力学的特性を有するナノ材料を分散させたナノ複合材料が開発できれば、これまでにない高破壊靭性複合材料となる可能性があり、水素貯蔵タンクの外板へ適用できる。しかしながら、CNTは樹脂との接着の弱さや樹脂中に均質に分散されないという問題がある。分散の問題については、製造時にCNTがお互いに絡まりあい、樹脂中で凝集したままの状態で存在してしまうことが原因の1つに上げられる。本研究では、分散性を向上させるために超音波を用いて多層カーボンナノチューブ(MWCNT)を切断し、複合材料を製作した。引張試験、摩耗試験を行い、製作した複合材料の力学的特性を評価した。超音波処理したMWCNTのSEM画像から、超音波処理を行うことでMWCNTが切断され、大きな凝集がなくなったことが確認できた。試験片として、(1)エポキシ樹脂試験片、(2)超音波処理をしていないMWCNTをエポキシ樹脂に混ぜた試験片(MWCNT/epoxy)、(3)超音波処理したMWCNTをエポキシ樹脂に混ぜた試験片(超音波MWCNT/epoxy)の3種類を製作した。MWCNTの含有量は1重量パーセントとした。引張試験の結果から、MWCNT/epoxyおよび超音波MWCNT/epoxyのヤング率は、エポキシ樹脂単体よりもそれぞれ10%と2%向上した。一方、MWCNT/epoxyの引張強度はエポキシ樹脂よりも12%低下し、超音波MWCNT/epoxyでは3%増加した。ヤング率の向上はMWCNTを含有させた効果と考えることができる。超音波MWCNT/epoxyのヤング率がMWCNT/epoxyよりもかなり低くなっている原因としては、CNTの分散が促進されたことと、ボイド率が増加したことの2点が上げられる。また、MWCNT/epoxyではCNTが凝集したままになっており、引張強度は大きく低下している。超音波処理したMWCNTをエポキシ樹脂に混ぜると樹脂の粘性が上がり、ボイドの除去が大変難しくなるという問題が発生した。摩耗試験では、超音波MWCNT/epoxyの比摩耗量がエポキシ樹脂に比較して11%低下しており、CNTの含有と分散性の向上による効果と考えられる。
著者
中嶋 健明
出版者
広島市立大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2007 (Released:2007-04-01)

幼い子供を対象とする犯罪から子供たちを守るため、CGやVR技術を用い、地域全体の監視性と関心を高め、犯罪の起こり難い環境を作り、もし犯罪に巻き込まれた時には、子供たち自身の力で危機的な状況から、インタラクティブなゲーム感覚のシミュレーション装置による繰り返し訓練を行う事によって危機回避が出来る様にし、大切な子供たちの命を守る事に役立てようと試みた。研究代表自身の子供たちの通う小学校の校長・副校長あるいはPTAや地域の子ども会や町会など、子供を取り囲む各々の役割を持つ組織や個人の方たちを取材し、犯罪が起こりそうな特有な環境が判明した。神社や裏路地など数点に絞り実地調査を行った。また、彼らの意見から、ゲームをするように未就学の幼児でも簡単に操作が可能で、なお且つのめり込む様に興味を抱かせる環境を提供するためには、パソコンの画面だけではなく、もっと直感的なインターフェースが必要であることが判明した。最も親しみがあって実体のあるインターフェースとして玩具を取り上げることとした。ミニチュア模型のジオラマの様な、町や郊外の風景を再現し神社や空き地を配置して通学路を作成した。レールの上を動く車体の先端に取り付けた超小型の車載ビデオカメラの映像(被体験者の目線)に、インタラクティブに襲い掛かる犯罪者の映像を合成し、被体験者は足踏みマットの上を大きな声を張り上げながらダッシュして逃走を試みる。走る速さ(足踏みの回数/秒)と、マイクロフォンから入力された声の大きさ(dB)から、犯罪者から逃げ切れたかを判定する。それによって犯罪の起こり易い場所の理解と、犯罪から身を守るための対処行動の方法を身に着けてゆく。装置自体は研究期間内に完成させることが出来、実験の反響から装置の重要性は確認された。今後は実験を繰り返し行って行き、併せて普及に努める。
著者
鈴木 秀次
出版者
早稲田大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2003 (Released:2003-04-01)

我々は小山裕史が開発した初動負荷トレーニング動作の特徴を解明するために、ラットプルダウン動作を用いて検討した。初動負荷トレーニングにおける動作は、動作の切り換えしが素早く、短時間で最大パワーの発揮が可能であることが明らかとなった(平成15年度)。そこで平成16年度は、本動作の特徴である「かわし動作」(伸展-屈曲で動作が切り換わるときにひねりを加える動作)について筋活動とキネマティクスをしらべ、検討した。動作はラットプルダウンを用いた。筋活動は、僧帽筋、広背筋、大胸筋、上腕二頭筋、上腕三頭筋から記録し、解析した。その結果、かわし動作を行うことによって、伸筋から屈筋へと動作が切り換わる時に回旋筋群が協力筋として位相のタイミングをずらしながら活動することが明らかとなった。すなわち、これらの活動は伸筋と屈筋だけで賄う筋張力を分担することとなり、主動筋への負担を軽減する機能ともなっていた。「かわし動作」は体幹筋から末端部へ力を合目的的に伝達させ、負荷を持ち上げるのを助け、動作をストレス無く起こさせるように働くことが示唆された。本成果は、国際電気生理運動学会で発表し、アメリカスポーツ医学会で発表する。論文としては、バイオメカニクス研究9巻1号で報告した(印刷中)。本初動負荷トレーニングは、関節への外乱に対する抵抗力と筋の柔軟性を高め、怪我の予防と健康の維持増進につながる。この特徴を活かし、マシンなしでも効果が可能な連鎖反射ストレッチング体操を考案した。現在のところ42種類の体操を考案、実践し、映像化した。この成果の一部はホームページ(http://www.f.waseda.jp/shujiwhs/index-j.htm)に開示した。