著者
川田 哲也
出版者
慶応義塾大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1994

近年、放射線治療の適応は徐々に拡大され、放射線治療単独で根治する腫瘍も明らかになってきた。放射線治療法の問題点の1つに晩期障害がある。最近は子宮頸癌等で骨盤部に放射線治療を行うと、治療後数ヶ月経過して腰痛や骨盤骨折も多く報告されている。腰痛症は高齢者では癌が治癒しても日常生活に著しい制限を与え、癌患者のquality of life上極めて重大な問題の一つである。本研究は子宮癌の骨盤部放射線治療前後にdual photon法により骨塩定量を行ない、放射線による骨粗鬆症と腰痛症の関係を、臨床的に客観的評価を行なうとともに、骨芽細胞由来の培養細胞と動物実験により骨塩減少の機序を検討し、放射線による腰痛症発生の予防法と治療法を開発することを目的とした。まず、臨床的に放射線照射前後における腰椎の骨塩が低下するか否かを検討した。子宮癌等骨盤領域に放射線治療を行う患者は、照射前、30Gy、50Gy照射時および照射3、6、9、12ケ月後にdual photonにより骨盤部と腰椎の骨塩定量の行なった。放射線治療前後の腰椎照射部位と非照射部位の比較で、照射部位の骨塩量の低下している患者と、ほとんど変化しない患者が混在した。骨塩量の変化と放射線の照射線量の間にも有意の関連は認めなかった。しかし、照射後骨塩量の低下する患者があることから、その機序の解明のため、マウスの骨組織より作成した骨芽培養細胞3種に放射線照射を行ない、照射線量と細胞の生存率の関係を求めた。さらに、培養細胞に50%、10%、1%の細胞生存率が得られる線量を照射し、照射直後、12、24、48、96時間後に、細胞中のATP活性を定量した。骨芽細胞由来の培養細胞は、通常の線維芽細胞と同様の放射線感受性を示した。これらの細胞の細胞中のATP活性を測定したが、放射線照射による変化は認められなかった。