著者
川田 隆士
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
vol.2006, pp.140, 2006

【はじめに】<BR> 介護予防マネジメントの中で生活機能向上に対する意欲の引出し、生活のイメージ化が求められている。今回当ユニットに入居した1事例を通じ、OTの関わりと実生活に則した施設環境の重要性を紹介する。<BR>【事例紹介】<BR>81歳女性、俳句の同人詩で活躍。H15年より胸椎検査のため二ヶ月程入院。H16年1月、胸椎化膿性脊椎炎圧迫骨折両下肢麻痺にて手術。歩行器にて歩行可能となり8月退院。9月自宅にて転倒し右脛骨骨幹部骨折にて再び入院。物忘れ、昼夜逆転、夜間せん妄憎悪し、当ユニット入居。転院時状況は全般的に廃用性筋力低下著しく、食事(食欲低下)、寝返り一部介助以外全介助レベルで尿便失禁認める。疎通比較的良好。リハに意欲を示すが、帰宅願望強く、長谷川等の検査や車椅子座位での簡易な家事、俳句に対し参加拒否。表情硬く、白髪。親族は面会熱心で、激励や句会参加を強調する場面見受ける。<BR>【リハ治療プログラム】<BR>訓練は病前の活動を意識させないものから導入 1.下肢ROM訓練2.下肢運動機能向上訓練3.バランス訓練4.起立、歩行訓練を毎日実施<BR>【フロア、親族との連携】<BR>2.4を午前午後に分け1回ずつ、週3日実施。チェック表記入。OT指示が出るまで激励、句会等の会話はせず、できた事を賞賛するよう助言<BR>【当ユニットの特徴】<BR>1.12対5の小ユニット為、事例の心身状況を把握し易く、伝達が早い2.居住空間が狭く、近位監視が可能。家具の配置が密集され、参照点が多く、実生活に則した歩行が早期から可能3.個浴、家具類持込みに加え、生活パターンが個人基盤である事から退所後のイメージ化を促進4.開設からOTが関わっており、スタッフのリハビリに対する連携意識が強い5.完全カルテ開示にて、随時親族との打ち合わせ可能<BR>【経過】<BR>チェック表定着。訓練の調整可能。10日後歩行器歩行中等介助にて60m可能。2ヶ月後、歩行器歩行監視100m可能。テーブル支持にて移動可能。車椅子除去。食事(全量摂取)、排泄、更衣、整容動作修正自立。髪を染め、句集を目にし始める。3ヶ月後監視シルバーカー100m、伝い歩行60m可能。長谷川検査にて非認知症判定。他者への配膳、食事介助をされる。フロア、親族への助言解除。4ヶ月で移動は修正自立レベル。俳句作成、家事実施。5ヵ月で退所。通所リハへ移行。現在、移動完全自立。APDL修正自立。排句会の行事参加等多忙な生活を送っている<BR>【考察】<BR>事例は長期不活動による廃用だけでなく、自宅復帰時の転倒骨折にて退所後のイメージ化ができにくく、抑うつをベースとした仮性認知症症状を来たしていたと考えられる。短期間で劇的に改善を認め、再復帰に至った背景には小規模単位による早期連携の定着化、実生活に則した環境因子による在宅イメージの容易化が考えられる。しかし、これらを短期間に事例の生活機能に反映していけた背景には事例の心身両面の改善に対し、早期よりOTがスタッフ、親族との連携に積極的に関われた事が挙げれれる