著者
杉本 彩 杉若 明則 田口 恭子 川端 徹
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.2007, pp.B1579, 2008

【はじめに】<BR>ギランバレー症候群(以下GBS)発症後に妊娠が判明した症例を担当する機会を得たので報告する。<BR>【症例紹介】<BR>23歳、女性。2006年6月9日より扁桃炎症状出現し、下肢脱力、歩行不能を認め、6月16日当院受診後GBSと診断され入院となった。神経伝達速度(以下NCV)において、感覚神経は正常であったのに対し、運動神経では上肢に著明な脱髄型GBSを認めたため、ガンマグロブリン大量療法が施行された。<BR>【理学療法経過】<BR>入院後4日目の6月20日より、理学療法(以下PT)を開始した。初期評価時において、筋力は上肢MMT3レベル、下肢MMT1~2レベルであった。またADLにおいて、起き上がり動作は全介助(FIM1)、端坐位は監視~軽介助(FIM4~5)、食事動作は自助具を用いて自立~監視レベル(FIM5~6)であった。上肢機能は良好な改善を認め、箸での食事動作も早期自立となった。しかし下肢機能の改善は停滞し、6月21日のNCVにて脱髄型GBSが認められ、7月19日には、重症型と言われる軸索型GBSと診断された。その後、車椅子による動作獲得を目指し、8月10日にアームレスト着脱式車椅子およびトランスファーボードを用いての移乗自立レベル、上肢優位での平行棒内立位監視レベルとなり、回復期病院へ転院となった。しかし、転院後妊娠5ヶ月目と判明し、8月29日に当院再入院となった。PT再開後、腹圧をかけ過ぎない等の医師からの指示もあり、ベッド上訓練を中心に施行した。また、出産・出産後に向けての動作訓練も併せて行った。臨月に入り、動作緩慢となり介助を要する状態となったが、12月20日経膣分娩にて出産。分娩翌日より、育児および自宅退院に向けてのADL訓練を中心としたPTを施行し、2007年1月9日、固定型歩行器歩行にて自宅退院となった。その後、訪問リハビリテーションを1月16日より開始し、9月14日に屋内独歩自立獲得となった。<BR>【考察】<BR>本症例は上肢の機能改善は良好であったが、下肢機能の改善は停滞した。その原因については、疾患的側面から軸索型GBSに多いGM1抗体が陽性であったことや脱髄の炎症が長期化し、軸索変性に移行したことが考えられる。また、身体的側面からは妊娠中による運動負荷量制限や妊婦体型による腹壁弛緩や骨盤前傾、および体重増加による下肢や体幹への過剰負担が影響していたと考えられる。出産後は体型変化に伴い下部体幹筋収縮が可能となり、また運動負荷量の増大が歩行獲得につながったと考える。さらに、妊娠中であっても身体負荷量が過剰にならないよう考慮しながら、運動を継続したことで廃用による機能低下も最小限に留められたのではないか。自宅退院後は、育児を含む日常生活での活動量が増加し動作獲得に至っている。しかし、下肢末梢筋群の筋力低下は依然として残存しており、今後も経過観察が必要であると考える。<BR>