著者
市川 政治
出版者
気象庁気象研究所
雑誌
Papers in Meteorology and Geophysics (ISSN:0031126X)
巻号頁・発行日
vol.37, no.2, pp.91-134, 1986
被引用文献数
5

地震予知研究のため、地震をはじめとして各種の観測網が整備され、データが急速に蓄積されつつある。その結果、地震の前駆現象は単純なものでないことが明らかとなってきた。大きな地震の前駆的異常現象として、前震、バースト、群発地震、地震空白域、地震活動の静穏化、発震機構の変化、その他が認められている。しかし、これらの現象は大きな地震の前に必らず出現するものでなく、また、出現したからといって必らずしも大きな地震が発生するものでもないらしい。さらに、これらの現象の発生には地域性があるとされている。<br> 大地震の前駆的異常現象について、これまで多くの研究がなされているが、これらの研究における異常検出の基準は必ずしも同じではなく、また、各種の異常を総合的に調べた事例は少ない。そこで、1926-1983年までに主として日本内陸に発生した深さ30km以浅で規模M5以上の地震を対象にして、同一判定基準で、かつ、できるかぎり客観的に各種の地震学的前駆現象の検出を行った。これらの現象検出はM5以上の地震について、また、検出のために使用した地震のMは、データの均質性を保つために3.5以上とした。このほかに、これらM5以上の地震発生と活断層、地質断層や歴史地震との関連も調査した。<br> 地震発生と検出した各種現象との関連性を統計数理研究所の坂元らの開発したプログラムCATDAPにより解析したところ、大きな地震に最も強い関連のあるものは、地震空白域、ついで、バースト、また、地震空白域と前震、バースト、地震活動静穏化現象との組合せも、大きな地震の発生と強い関連性を持つという結果が得られた。さらに、活断層や歴史地震は大きな地震の発生とは独立であるという結果も得られた。歴史地震と大きな地震の発生が独立であるという結果は、内陸浅発地震の再来周期の長さから妥当なように考えられる。<br> さらに、地震発生のパターンには顕著な地域性が認められた。<br> 以上の諸結果に基づいて、内陸浅発の大きな地震発生の長/中期的予測のために有効と考えられる地震学的前駆現象の検出手法を検討してみた。