- 著者
-
市川 敏夫
- 出版者
- 日本比較生理生化学会
- 雑誌
- 比較生理生化学 (ISSN:09163786)
- 巻号頁・発行日
- vol.32, no.1, pp.10-23, 2015-03-16 (Released:2015-04-03)
- 参考文献数
- 22
多くの昆虫は前跗節に1対の爪を持ち,種によってさらに爪に付属した爪間盤や褥盤などをもつ。これらの接着装置(器官)の基質や対象物への接着/脱着などの動作の監視および調節は歩行など様々な行動の遂行に重要である。前跗節の形態は生息環境などに適応して様々であるが,動かす仕組みは多くの昆虫に共通である。爪の基部がその背側部分で跗節先端にある担爪突起と関節を形成し,腹側部は爪牽引盤に接続している。歩行時,腿節や脛節にある爪牽引筋が収縮するとその長い腱を介して,爪牽引盤が跗節最終節先端のソケット構造に引き込まれ,爪などは腹側−側方に屈曲してソケット構造の縁に接触すると共に基質に噛み込む。この前跗節の動作のモニターに関与する機械感覚器の配置パターンを数十種の昆虫類で調べた。全ての昆虫に共通して,爪牽引盤や爪基部が接触するソケットの部分(内側面,外側面あるいはエッジ部)に毛状感覚子(触覚センサー)と鐘状感覚子(ひずみセンサー)がセットになって配置されており,このセンサーシステムが前跗節の動作の監視のための基本設計であることが示唆された。また,昆虫類によっては,爪の中あるいは担爪突起の中あるいは双方に様々なパターンで鐘状感覚子が追加配置され,それらが爪にかかる負荷を受容することによってシステムの高度化を担っていることが示唆された。爪間盤は基質との接着面積の大きい接着器官であるが,器官の正中面に対して左右対称な位置に鐘状感覚子,毛状感覚子または両感覚子が配置されており,接着面との傾きの検知システムが基本設計であることが示唆された。