著者
市来 伸廣
出版者
順天堂医学会
雑誌
順天堂医学 (ISSN:00226769)
巻号頁・発行日
vol.43, no.4, pp.599-612, 1998-03-30
参考文献数
32

目的: スポーツ心は運動負荷による生理的心拡大と理解されているが, 非可逆的心筋病変を発生して, 心筋症的病像を呈するものも経験される. その場合の心筋構築の変化を病理組織学的に検討する.対象と方法: スポーツ選手18例を対象として, 肥大型心筋症12・高血圧性肥大心12・正常血圧心8例の対照3群と臨床検査所見, および心筋生検組織像を比較した.結果: スポーツ選手では, 心電図上全例にT波異常 (うち巨大陰性T波8例) を認め, 心室性期外収縮2・高電位13・異常Q波4例;左室造影では心尖部肥大8 (競輪6 陸上1 ボクシング1), びまん性肥大5・流出路中間部肥大1例で, 左室駆出率60%以下6例であった. その生検所見では心筋細胞横径;右室で18μ・左室で22μ, 配列偏位面積;45%であった. この配列偏位は肥大型心筋症群には及ばず, 高血圧性肥大心・正常血圧心群よりも大で, 高年齢で選手歴の長い症例に高い傾向を示した. 線維症面積は正常血圧心と同程度で, 肥大型心筋症・高血圧性肥大心群より小であった.総括: スポーツ選手の心筋にみられる心筋細胞配列偏位は, 血行力学的負荷に対する構造上の改築の初期像であり, 負荷強度が大かつ長期間に及ぶと, 一部は非可逆的配列の乱れを生じ, 心尖部肥大型心筋症に進展することがある.