著者
竹山 和宏 橋場 悠一 武隈 智子 常田 衛 宝泉 百合香 笹原 英希
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48100538-48100538, 2013

【はじめに、目的】 バランスト・スコアカード(以下、BSC)とは財務、顧客、学習・成長、業務プロセス、という4つの視点から企業活動全体を把握する経営管理手法であり、近年、病院で導入し業績が改善されたとの報告も多くされている。しかし、介護老人保健施設での報告は少ない。今回、BSC導入後の結果と今後の課題を報告する。【方法】 以前より経営管理手法の必要性は十分に認識していたが、知識不足もありリハビリ部門のマネジメントは戦略的に行われていなかった。そのため、効率的なマネジメントや業務内容の改善を図るために平成23年4月よりBSCを導入した。年度初めに、財務の視点など4つの視点においての目標、成果指標、実施内容、及び年間事業計画を立案した。まずは、リハビリ職員全員でリハビリ部門の理念を明文化し施設内に掲示した。月一回の会議(約30分間)ではADLの改善率(新規短期集中リハ加算者のうち、初期評価時と3ヶ月後のBarthel index:BIの値を比較し改善した者の割合)等の成果指標や実施状況等について確認を行った。内部研修は年間事業計画に基づき業務時間外に45分間実施した(自由参加)。アンケート調査として、リハビリ職員5名に対して無記名・5段階方式での職員満足度調査を行った。 なお、利用者に対する満足度調査は、毎年1回実施している支援相談員が行った調査を活用した。平成24年3月に総括を行い、その結果に基づき新たな目標設定、事業計画の立案を行った。【倫理的配慮、説明と同意】 今回の報告にあたり、入善老人保健施設こぶしの庭、施設長、米澤高明の承認を得た。【結果】 前年度と比較が可能であった成果指標は、(1)財務の視点は、リハビリ総収益(45%増加)新規短期集中リハ算定者数(30%増加)であった。(2) 顧客の視点は、リハビリに対しての利用者(入所者)の満足度64%(3%増加)、通所リハビリの内容について「良い」と回答した者の割合30%(4%増加)であった。 (3) 学習・成長の視点は、内部勉強会回数14回(17%増加)外部研修への参加数7回(37%減少)、学会発表(東海北陸理学療法学術大会1名)、個人の目標設定2回(維持)、関連資格取得名1項目(認定理学療法士取得1名)であった。ADLテスト(BI)改善率は、16%(前年度は五ヵ月分の値16.5%)であった。(4)業務の視点は、在宅復帰率20%(6%減少)であった。その他、他職種との情報交換、他職種への具体的なアプローチの提案を実施したが、実績値での比較はできなかった。職場環境に関して、リハビリ職員満足度調査の実施から、職場の雰囲気・人間関係、精神的な不安、仕事の成果、の得点が全国平均と比較し低いことがわかった。そのため、平成24年度の目標・事業計画では、新たに働きやすい職場作りといった目標を掲げ、定期的な面接や職員ストレス調査、疲労蓄積度チェックリストを事業計画として立案した。【考察】 永山は、著書の中でBSCの効果を、財務面、業務面での改善が可能となる。BSCを構築する際に問題及び課題を明確にするため、コミュニケーションが活発になり納得性が得られ組織の意識が変わる(永山、2004)。といった点を指摘している。今回も、財務面での飛躍的な改善が見られた(前年度比45%増加)。これは、成果指標を短期集中リハビリ加算者と明確にしたことで、重点的に20分以上の個別リハビリに取り組めたことや入所担当職員が少ない時は、通所担当職員が協力する等の体制が整ったことが大きかったと考えられる。業務面では、バランス良く詳細に各業務を確認した結果、業務量の偏りや各個人それぞれの課題、メンタルヘルス面での課題を明らかにすることができた。今後は、各種調査や新たな事業計画を実施することで改善を図っていきたい。在宅復帰率が減少したことは、その年の入所者や家族の特性に影響される部分もあると考えられる。また、今回はリハビリ部門のみでのBSC導入であったため、在宅復帰といった明確な目標が施設職員全体に浸透しなかったことも要因と感じている。今後、施設全体のBSCや全老健協会のR4システムを導入することも必要と考えられる。介護老人保健施設では、著明にADLが向上する者は少なく、利用者の機能改善を図るといった点においては仕事の成果が生じにくい。そして、介護職との役割の違いが曖昧になりがちでモチベーションを維持しにくい状況がある。だからこそ、自己の存在意識や役割を明確にする理念の明文化やBSCをマネジメントに取り入れることは大変重要である。【理学療法学研究としての意義】 介護老人保健施設でのリハビリ部門にBSCを導入した事例を報告することで、他施設におけるマネジメントの参考になる。