著者
平尾 一朗
出版者
関西社会学会
雑誌
フォーラム現代社会学 (ISSN:13474057)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.18-30, 2019 (Released:2020-05-29)
参考文献数
40

自営業と非正規雇用は代替性や類似性が指摘され比較されることが多い。しかし自営業者が退出後にどのような職業に就くかは不明であるし、代替性の議論も両者の類似性が強調されすぎている。本稿では自営業者と非正規雇用者の退出後の雇用形態を探索的に比較し類似点と相違点を示す。労働市場の二重構造論、自営業・非正規雇用の経験年数、家族構造と性別役割分業の影響を念頭に置き仮説が立てられた。2015年SSM調査(社会階層と社会移動に関する全国調査)データを用いた。分析対象は男女の非農業である自営業経験者と非正規雇用経験者である。離散時間ロジットモデルを用い、従属変数を自営業からの退出後の正規雇用、非正規雇用、無職への移動、非正規雇用からの退出後の正規雇用、自営業、無職への移動とした。分析の結果、類似点は第1に若年層を除けば二次的な労働市場における移動に制限されやすい、第2に自営業と非正規雇用の経験年数は直接的に正規雇用への移動に貢献しない、第3に出身階層の影響を受けにくい。相違点は第1に自営業者は子どもの成人後までをも含めた長期的な家族戦略、非正規雇用者は子どもの育児期までの短期的な家族戦略の影響を受けるかのようである、第2に自営業の経験年数の効果は非正規雇用への移動後に現れる。これらの相違点ゆえ仮に両者が代替的であっても自営業率の変化は非正規雇用率の変化よりも緩やかに生じるはずである。