著者
松本 七映 鎌田 真光 林 英恵 カワチ イチロー 平山 太朗 根岸 友喜
出版者
日本健康教育学会
雑誌
日本健康教育学会誌 (ISSN:13402560)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.223-228, 2021-05-31 (Released:2021-06-16)
参考文献数
19

「パ・リーグウォーク」は2016年3月に無料配信を開始したプロ野球パシフィック・リーグ6球団の公式アプリである.ファン心理を核として,行動科学理論とゲーミフィケーションに基づき,楽しみながらアクティブに過ごせるよう設計されている.例えば,プロ野球の試合と連動した1日合計歩数による対戦球団ファン同士の歩数合戦や,1日1万歩を達成すると1枚ランダムに選手画像がもらえる選手図鑑機能などがある.長期的かつ大規模に事業継続され,2021年3月時点で全47都道府県から6万超のダウンロードがあった.匿名データを用いた検証では,アプリ利用による歩数の増加とその継続が確認された.また,自治体等が実施する既存保健事業ではリーチが比較的困難であった男性,壮年期,様々な社会経済的状況の人々も巻き込み,これらの層でも歩数増加が認められた.アプリ利用開始時点で運動の行動変容ステージが前熟考期の者が約4分の1も占めていたことも分かっている.「みるスポーツ」と「するスポーツ(身体活動・運動)」を融合させたこのモデルは,新たな健康づくり,スポーツ施策の在り方を提示している.また,「ファン心理」という切り口は,他のスポーツやエンターテイメントへも応用可能である.好きな画像が集められるなどの非金銭的なインセンティブ,対象(集団)の団結力を引き出す競争の仕組み,ゲーム要素は,自治体の取り組みにも活かせるかもしれない.