著者
平岡 マリオ
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.1-23, 1985-04-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
69
被引用文献数
18 29

本稿は,ペルー・アマゾンの氾濫原を生活空間としたメスチソの自給的生活様式を,文化生態論的視点から検討したものである。河川を中心とする経済は,土着的な資源利用の技術に基づいており,河川水の水平的および垂直的な運動によって生じる多様なバイオトープを,体系的に利用するものである。河岸に居住するメスチソの自給的生活様式を説明するために,DENEVANが提出した,農業の水平的地帯分化のモデルを用いた。住民の食料および衣料にかかわる需要の大部分は,農耕によって満される。混植型の焼畑移動耕作と,多品種永久畑耕作の二つの農耕システムが存在する。前者は,洪水に見舞われることのない堤防上で行われるが,後者は,毎年増水期に水没する土地で見られる。農耕以外には,食料と市場に出す財を得るための重要な補足的な生業として,採集,漁〓,狩猟が行われている。こうした伝統的な生業技術嫉・市場経済に対して適応力を示してきており,この点で,アマゾソ開発には潜在的な価値を持ち得るものであろう。氾濫原の土壌では,河川の氾濫によって,植物のための栄養物質が周期的に供給されるため,収穫の持続した農業と,余剰食料の生産が可能である。また,多様なバイオトープを利用する農業は,家族農業に適している。したがって,とくに農業の生産性が低く,人口の稠密な地域から,多数の人口を受け入れる潜在力が存在する。大規模な農業開発行為によって,著しい環境破壊が生じている河間地帯に比較して,氾濫原の環境は,集約的で継続的な利用に,より大きな可能性を有するのである。