著者
平川 亘
出版者
認知症治療研究会
雑誌
認知症治療研究会会誌 (ISSN:21892806)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.2-10, 2022 (Released:2022-03-05)
参考文献数
4

認知症治療30 年の診療経験から現在の認知症治療の問題点を考える.認知症が痴ほう症と 呼ばれていた1990 年代に使える薬剤は脳循環代謝改善薬しかなく,抗精神病薬を使った興奮症状の 調整が主であった.1999 年になりアルツハイマー型認知症の症状進行抑制薬としてドネペジルが登 場したが,期待されたものの治療成績は良くなく,自験例における評価では過去の治療成績に劣った. ドネペジル登場以降,治療開始後に易怒性や妄想が悪化する症例が増え治療が困難となった.入院で は肺炎や骨折などで入院する患者の中に副作用症例を多く経験しドネペジルを止めることで歩けな かった患者が歩けるようになる,また摂取不能の患者が逆に食事が取れるようになる改善例が続いた. これらの副作用症例は全て発売会社に報告したが臨床試験には無い報告であるとされた.発売後の臨 床経験からドネペジルを用いる治療は副作用を回避する必要があることがわかった.そこで2004 年 よりドネペジル半量投与で治療したところ,一年後評価では半量治療の方が,規定量治療よりも有効 率が高く,悪化率が低かった.2011 年には新規薬剤としてガランタミン(レミニール),リバスチグ ミン(イクセロン,リバスタッチ)・パッチ,そしてメマンチン(メマリー)が登場したが,治療薬 が増えたことで治療機会が増え副作用症例が激増した.そのため著者は副作用の啓蒙のために地域で 勉強会を行うようになった.この10 年余の活動により,地域で規定量で処方する医師は減り適量で の使用法が浸透し,治療効果を上げながら副作用症例は激減した.30 年の経験で学んだ結論は,認 知症患者を既存のエビデンスや診療ガイドラインで良くすることはできないということである.薬剤 の副作用を回避しながら,必要な認知症患者にのみ必要な量を使うという治療法が求められる.