著者
河野 和彦
出版者
認知症治療研究会
雑誌
認知症治療研究会会誌 (ISSN:21892806)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.22-31, 2021 (Released:2021-02-15)
参考文献数
11

認知症は,意識が明確なときにも認知機能が病的に低いことで定義されるが,患者の高齢化時代においては,軽度の意識障害をもつ認知症患者が散見される.その場合,最優先に治療されるべきことは意識レベルであることはいうまでもない.そこで,主治医が患者に意識障害があると認識することが重要である.そしてシチコリン注射,抗てんかん薬など的確な治療を施す.
著者
園田 康博
出版者
認知症治療研究会
雑誌
認知症治療研究会会誌 (ISSN:21892806)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.3-19, 2021 (Released:2021-02-15)
参考文献数
18

認知症診療を専門に多くの認知症の方々を診ていると,base に発達障害を持っている方々が多くいることに気づかされる.また,その家族にも同様の傾向の方々が多くみられることにも気づく.昨今,この認知症と発達障害との関係に目を向ける報告例も散見されるようになってきている.発達障害の専門書を紐解くと「レビー小体型認知症の診断基準」にも入っている“抗精神薬にたいする過敏性”の指摘が多くみられる.これは,総じて認知症の治療の考え方に大きく通ずるものと考えられ,認知症と発達障害の治療は共通点が多い.また,パーキンソニズムは自閉症スペクトラムにおける症状の“三つ組の障害”の一つ,“ノンバーバルの異常”と同義語といえる.この点を踏まえて,パーキンソニズムのある認知症との鑑別には画像診断(MIBG 心筋シンチグラフィー,DAT スキャン,脳血流シンチグラフィー,頭部MRI)が重要であることを指摘しておきたい.発達障害は一つの疾患単位の場合だけではなく,強弱の程度はあれ複数の疾患がオーバラップして発症していることも多いということも注意が必要である.認知症診療において発達障害に関する知識は,これからはなくてはならない不可欠なものとなっているといっても過言ではない.
著者
平川 亘
出版者
認知症治療研究会
雑誌
認知症治療研究会会誌 (ISSN:21892806)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.2-10, 2022 (Released:2022-03-05)
参考文献数
4

認知症治療30 年の診療経験から現在の認知症治療の問題点を考える.認知症が痴ほう症と 呼ばれていた1990 年代に使える薬剤は脳循環代謝改善薬しかなく,抗精神病薬を使った興奮症状の 調整が主であった.1999 年になりアルツハイマー型認知症の症状進行抑制薬としてドネペジルが登 場したが,期待されたものの治療成績は良くなく,自験例における評価では過去の治療成績に劣った. ドネペジル登場以降,治療開始後に易怒性や妄想が悪化する症例が増え治療が困難となった.入院で は肺炎や骨折などで入院する患者の中に副作用症例を多く経験しドネペジルを止めることで歩けな かった患者が歩けるようになる,また摂取不能の患者が逆に食事が取れるようになる改善例が続いた. これらの副作用症例は全て発売会社に報告したが臨床試験には無い報告であるとされた.発売後の臨 床経験からドネペジルを用いる治療は副作用を回避する必要があることがわかった.そこで2004 年 よりドネペジル半量投与で治療したところ,一年後評価では半量治療の方が,規定量治療よりも有効 率が高く,悪化率が低かった.2011 年には新規薬剤としてガランタミン(レミニール),リバスチグ ミン(イクセロン,リバスタッチ)・パッチ,そしてメマンチン(メマリー)が登場したが,治療薬 が増えたことで治療機会が増え副作用症例が激増した.そのため著者は副作用の啓蒙のために地域で 勉強会を行うようになった.この10 年余の活動により,地域で規定量で処方する医師は減り適量で の使用法が浸透し,治療効果を上げながら副作用症例は激減した.30 年の経験で学んだ結論は,認 知症患者を既存のエビデンスや診療ガイドラインで良くすることはできないということである.薬剤 の副作用を回避しながら,必要な認知症患者にのみ必要な量を使うという治療法が求められる.
著者
中嶋 一雄
出版者
認知症治療研究会
雑誌
認知症治療研究会会誌 (ISSN:21892806)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.34, 2022 (Released:2023-02-08)
参考文献数
31

夏目漱石は,神経衰弱・胃潰瘍・糖尿病の持病を有し,糖尿病の治療として当時の最新治療 の厳重食(現在の糖質制限食)が行われた.炭水化物を減らし蛋白質・脂肪を増やす食事内容で,こ の治療により糖尿病と神経衰弱の症状は改善し,最終作の「明暗」に治療光景が描写された.しかる に胃潰瘍は改善せず,結局腹腔内出血で死亡した. 3 種の持病の関連と厳重食の治療効果を,現代の医学で考察してみた.①2 型糖尿病患者はピロリ 菌陽性率が高い.②40 代の糖尿病患者にうつ病発症率が高く,一方再発性うつ病患者は胃潰瘍発生 率が高い.③ケトン体形成食が統合失調症等の精神症状の改善を生ずると報告されている.三種の疾 病は相互に関連していたと考えられた.当時の厳重食は神経衰弱・糖尿病に有効だったが,胃潰瘍に は無効であった.ビタミンA や食物繊維の多い食材を多く摂取すれば,胃潰瘍にも効果があった可 能性がある.
著者
田頭 秀悟
出版者
認知症治療研究会
雑誌
認知症治療研究会会誌 (ISSN:21892806)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.38-42, 2022 (Released:2022-03-05)
参考文献数
5

外来診療,入院診療,訪問診療に続く第4 の診療形式として情報通信機器を用いて行うオン ライン診療が,新型コロナウイルスの感染拡大の影響もあいまって,近年急速に注目を集めてきてい る.一方で,従来の対面診療と比べてオンライン診療という診療形式は未だ医療の中で補助的な役割 にとどまっており,十分な価値を提供しきれていない実情がある.他方でコーチングの要素を盛り込 むことで,全ての慢性疾患患者に対してオンライン診療は有効活用できる可能性を秘めている.とい うのも直接的な医療行為を行えない条件には,患者自らの主体性を促し,自らの生活行動の改善によっ て病気を克服させる潜在性があるからである.逆に言えば,「認知症」のような患者の主体性が期待し にくい状況においては,コーチング的オンライン診療による価値を提供することは難しい.また主体 性が強固に制限された「神経難病」患者においても同様の問題に直面する.本稿ではオンライン診療 専門で対応してきた当院が認知症や神経難病に対して行っている工夫や経験,教訓について紹介する.
著者
荒木 良太
出版者
認知症治療研究会
雑誌
認知症治療研究会会誌 (ISSN:21892806)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.32-34, 2021 (Released:2021-02-15)
参考文献数
24

植物由来成分であるフェルラ酸を含むサプリメントが認知症の周辺症状(Behavioral and psychological symptoms of dementia;BPSD)に対して有効である例が報告されている.しかしながら,その作用機序の詳細は明らかとなっていない.これまでに我々は,フェルラ酸が中枢神経系に及ぼす影響に関して,実験動物を用いた基礎研究を行い,フェルラ酸が神経幹/前駆細胞の増殖を促進することや5-HT1A受容体の部分作動薬として働くことを明らかにしてきた.本稿では,こうした我々の基礎研究結果をもとに,フェルラ酸がBPSD を改善するメカニズムとBPSD の治療におけるフェルラ酸の有用性について考察する.