著者
栗山 逸子 平川 千里 八木 安生 長村 みさほ
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.18, no.9, pp.1027-1036, 1986-09-15 (Released:2013-05-24)
参考文献数
21

坐位から仰臥位,次には受動的下肢挙上の順で体位を変える際に誘発される吸気相後半の不連続性肺ラ音(posturally induced crackles,略してPIC)テストを入院患者601例に計1,616回施行,PICの出現頻度を各疾患群にて比較検討し,以下なる事実関係を明らかにした. この際, ( a ) 呼吸困難に関するNYHA旧分類のclass III,IVの者(左心不全患者)および(b)70歳以上の症例を除外して判定した場合には,その旨を明記した.1)心筋梗塞(n=69)におけるPIC陽性率は,67.6%,本態性高血圧を伴う狭心症(n=13)は58.7%,本態性高血圧を伴わない狭心症(n=22)は60.8%という高頻度であった.また,本態性高血圧症(n=58)のそれは37.5%,拡張型心筋症(n=12)は19.1%であった.2)“その他の心疾患”(n=46)におけるPICの出現頻度は33.0%であった.3)非心疾患である肺疾患(n=24)でのPIC陽性率は57.6%,肝硬変および肝腫瘍(n=10)でのそれは68.4%,糖尿病(n=33)でも48.4%と高率であった.4)“その他の非心疾患”(n=115)におけるPICの陽性率は17.4%と低率であった.すでに学会報告しているごとく,このようなPIC発生の機序を要約するならば,下肢挙上に伴って血液の一部が心肺系内に移動,左房圧が2~3mrnHgだけ上昇し,肺微小血管からの体液漏出が生ずることにより,small airwayに機能的な狭窄が生じ,このことが,PIC発生機序の少なくとも一部である可能性が考えられる.