著者
平川 陽
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
vol.2016, pp.188, 2016

<p>【はじめに】</p><p>複合性局所疼痛症候群(以下CRPS)患者は一般的に運動障害もきたすが、その運動に関連する領域の障害による各種感覚情報統合の不一致が痛みの一因として考えられている。今回、CRPS患者の痛みに感覚情報再構築・不一致改善に向け介入を試みたので報告する。</p><p>【症例紹介】</p><p>80歳代女性。自動車と衝突し転倒し右大腿骨顆上骨折受傷し骨接合術施行。その後自宅退院となるが大腿部を中心とした受傷時からの強い疼痛は持続していた。7ヶ月後、疼痛の増悪認めスクリューの折損による偽関節にて再手術施行。3ヶ月の入院の後、自宅退院し外来にて演者が週2回2ヶ月間リハビリ実施した。</p><p>【評価】</p><p>安静時より大腿遠位部を中心に疼痛を訴え、Visual Analog Scale(以下VAS)にて58mm。熱感や膝関節の腫脹も残存し常に股関節屈曲・内転・内旋、膝関節屈曲させ防御性収縮を認めていた。その位置を正中と認識し下肢の動きを足部で判断していた。また常に痛みが意識され、接触や運動時にはVAS78mmまで増悪した。股・膝関節の運動覚の変質を認め、特に距離の認識が困難で「こんなずれるの?関節が動くイメージがわかない」と視覚確認や左右比較にて大きく誤差を生じていた。関節可動域は膝屈曲80°伸展-30°、筋力も痛みの影響もありMMT3レベルであった。歩行時には膝関節の柔軟性が乏しく外転方向へ振り出し、十分に荷重できず立脚時間が短縮し杖に強く依存していた。常に視線も足元を見ており「下見てないと安定しない、怖い」と足底接地の不安定さと共に触圧覚の変質を認めた。</p><p>【病態解釈】</p><p>受傷時より常に疼痛が持続し疼痛部位の不活動や防御性収縮によりさらに疼痛を生み出すという悪循環に陥っていたものと考える。末梢機構の変質だけでなく中枢機構においても股・膝関節を中心に荷重時には足底も含め適切な身体知覚が困難な状態となり、身体のイメージと実際の知覚や視覚との不一致につながり疼痛が強く持続し慢性化していると考えた。</p><p>【治療仮説及びアプローチ】</p><p>Moseleyらの慢性疼痛が持続する原因として感覚情報間の知覚能力の低下が関係し、知覚能力の改善は疼痛を軽減させることや、Finkらの感覚情報間の不一致が疼痛の慢性化の原因となると述べていることから、適切な身体知覚が可能になることに加え、視覚との整合性の獲得が必要になると考えた。疼痛に注意が向きやすい状態に視覚イメージや健側運動イメージを利用し、身体への注意を促し①股・膝関節の運動方向・距離識別および筋感覚識別②視覚と体性感覚の整合性③下肢運動と足圧の関係性構築に向けた課題を実施した。</p><p>【結果】</p><p>股・膝関節に注意が向きにくかったが運動イメージを利用する事で適切な知覚が出来始め、股・膝関節の関節運動の認識とともに距離認識の改善を認めた。合わせて視覚との一致が図られ、疼痛も軽減し安静時・接触・運動時ともに痛みはVAS12mmまで改善。臥位での姿勢偏位の修正、防御性収縮も消失。関節可動域は膝屈曲100°伸展-5°となり筋力もMMT4まで改善した。歩行時の股・膝関節の柔軟性が改善され、荷重も十分に行え「足がしっかり支える。足元見なくて大丈夫」と記述も変化した。しかし、骨癒合が不十分で荷重時痛もVAS34mmと未だ疼痛や筋力低下も残存している。</p><p>【まとめ】</p><p>CRPSに対する治療として単に感覚情報の再構築や情報間の不一致の解消のみならず患者が知覚できる情報の構築に向けた運動イメージの導入の必要性を感じた。また疼痛の要因には様々な知見が挙げられ、多面的な評価や病態解釈の重要性も認識できた。</p><p>【倫理的配慮,説明と同意】</p><p>本発表はヘルシンキ宣言に則り、患者本人に趣旨を説明し同意を得たものである。</p>
著者
赤木 勇規 平川 陽
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.212, 2008

【はじめに】<BR>小脳出血後右片麻痺に加え頚部運動時に眩暈、眼振が出現する症例に対し、認知運動療法を試みたので報告する。<BR>【症例紹介】<BR>49歳女性。小脳出血発症から2週間経過後に理学療法を開始、右片麻痺に加え頚部運動時に眩暈を認め、当初立ち上がり、歩行は監視であったが自立に達し4ヶ月後自宅退院。しかし、退院後も強い眩暈、眼振続き認知運動療法による介入を試みた。<BR>【理学療法評価】<BR>外来治療開始時、感覚検査は異常なし。注意障害、右上下肢の運動単位動員異常、失調症状が認められた。頚部筋緊張が高く、常に固定し動きは乏しく「首の後ろから頭が痺れてアルミ棒がある様で硬い。髪の量が多く頭自体も大きく感じて、後ろに引かれるみたい」等の発言がみられた。頚部運動は非常にぎこちなく動揺やスピードの遅さみられ、眩暈の訴え、眼振が出現し特に坐位から背臥位になる際や後屈、回旋時に顕著であり「無理に曲げないといけない」「後ろに引っ張られる」「首を回す時、雑巾を絞る様に無理に捻る感じ」と発言される。歩行時も方向転換や立ち止まる時にふらつきや眩暈が出現「カーブの時は眩暈が出そうでふらつく」「立ち止まると髪の毛を後ろに引っ張られる感じ」等の発言がみられた。なお眼球運動のみでは眩暈、眼振は見られなかった。<BR>【病態解釈とアプローチ】<BR> (1)小脳出血及び手術侵襲により頚部の表象が変質しているのではないか(2)先の問題により頚部運動時、頚部の動きが予測出来ないことで眼球も協調的な働きが出来ず、眩暈、眼振が出現しているのではないかと考えた。そこで頚部の表象を再構築する目的でスポンジを用いた接触課題、筋感覚的な頚部の運動イメージの再構築を図った。これにより頚部運動の予測が可能となり、眼球運動とも協調的な活動が可能となるのではないかと考えた。介入に際し注意障害の影響が強く直接的に一人称イメージを用いた介入が難しく予測や結果との照合に困難を呈した。そこで視覚的イメージや目的部位以外での運動イメージを用いることで頚部への変換を促した。<BR>【結果】<BR>「頭を引っ張られなく軽くスムーズに動かせる」「眩暈や違和感が出るって思っていたけど今はない」等の記述がみられ、眩暈、眼振は頚部運動のみの場面では消失しその他でも軽減した。<BR>【考察】<BR>小脳は前庭神経核を介し眼球と頚部の協調的な働きに関与すると言われている。今回、眼球運動のみでは眩暈、眼振が見られなかった事から頚部表象の変質によって運動予測が出来ず眩暈、眼振が出現していたものと考えられる。また介入において小脳損傷による注意障害の為、非目的部位や視覚的イメージを目的部位である頚部の一人称イメージへ変換するという観点からアプローチを進めたことで頚部運動の予測が可能となり眼球運動とも協調的な活動が可能となったと考えられる。