著者
平本 義春
出版者
日本水産増殖学会
雑誌
水産増殖 (ISSN:03714217)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.14-20, 1976

キスを用いて種苗生産の基礎である親魚養成の可否を検討し, さらに進んで種苗生産技術の方式を確立することを目的として1974年10月17日から1975年8月22日まで地元 (鳥取県大谷) で採捕したキスを室内水槽で飼育し, 水槽内での自然産卵, 産卵数およびふ化率等について若干の知見を得た。<br>1) 地曳網で採捕したキスをマアジ, ホウボウ, イシダイ等と混養して飼育することにより漁獲後10日前後で餌付けすることができた。餌料としては, マアジ, カタクチイワシ, ホウボウ, ハタハタ, シイラ, ヒラメ, ヒレグロ, アカガレイ, エビ類およびアサリを使用した。<br>2) 産卵盛期以外で水温が8.0-29.0℃の範囲内では外的刺激等がなければ日間摂餌量は水温が高い程多くなった。また水温が8.0℃以下では摂餌を全く行なわなかった。親魚の体重に対する日間摂餌率は, 2月下旬 (水温9.0-10.9℃) で1.53%, 4月上旬 (水温13.0-13.9℃) で4.58%, 8月下旬 (水温27.5-28.0℃) は6.50%であった。<br>3) 産卵期は6月中旬 (水温21.6℃)-9月上旬であり, その盛期は6月下旬-7月中旬であって, この30日間に総産卵数の2/3以上の卵が産出された。<br>4) 雌親魚8尾 (全長18.1-21.8cm; 雄7尾) による総産卵数は1,582,450粒であった。またこの8尾の1日の最多産卵数は80,000粒であった。<br>5) 産卵数の日変化から推すとキスは明らかに多回産卵魚であって, 産卵は1日1回, 2時間以内で終る。産卵時刻は日没前後であるが, 産卵期が進むにつれてその時刻は若干遅れる傾向が認められた。<br>6) ふ化率は22.5-90.9%の範囲にあり, 産卵期の前半において比較的高い値を示した。またふ化率は1日の産卵数が多い時に高い傾向を示した。<br>7) キスの親魚養成は室内の水槽で可能であり, 自然産卵によって採卵した卵はふ化率も高く種苗生産に充分使用できると考えられた。