著者
平橋 淳一
出版者
一般社団法人 日本血栓止血学会
雑誌
日本血栓止血学会誌 (ISSN:09157441)
巻号頁・発行日
vol.32, no.6, pp.679-686, 2021 (Released:2021-12-25)
参考文献数
50

新たな生体防御機構として2004年に発見された好中球細胞外トラップ(neutrophil extracellular traps: NETs)は,自然免疫にとどまらずその制御不全が自己免疫疾患にも根本的に関わることが明らかとなってきた.NETsは自己免疫疾患の発症と進展へ少なくとも次の4つの点で寄与している.①病原性自己抗体産生における自己寛容(tolerance)の破綻②NETs成分の露出による自己抗原の供給③炎症の増幅④炎症に伴う血栓症(thromboinflammation)である.2007年,NETsが臓器損傷を誘発して宿主を傷つける可能性が初めて示唆されたのを契機に,NETosis阻害により様々な感染症における組織損傷を軽減できることが報告され,現在では,全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus: SLE),関節リウマチ(rheumatoid arthritis: RA),糖尿病,アテローム性動脈硬化症,全身性血管炎,血栓症,がんの転移,創傷治癒,外傷など様々な病態に関与していることが報告されている.しかし,NETsは本来生体防御機構の一つであり,感染防御のみならず何らかの有益な機能を果たしている可能性も忘れてはならず,NETsの制御法は重要な研究テーマの一つとなっている.