- 著者
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愛下 由香里
平賀 真雄
- 出版者
- 九州理学療法士・作業療法士合同学会
- 雑誌
- 九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
- 巻号頁・発行日
- pp.191, 2016 (Released:2016-11-22)
【目的】臨床において、LPH複合体の機能障害は多く経験する。骨盤底筋の収縮が、腹横筋・多裂筋の活動と関連していることが報告されている。しかし、運動に関する報告は多いが、実際に、骨盤周囲筋への徒手的介入が有効であるかどうか検討した報告は少ない。尾骨筋への介入前後における腹横筋に与える影響を検討したものがあるが、骨盤底の評価は行っていない。今回、骨盤底筋である肛門挙筋と、筋連結のある内閉鎖筋リリース介入前後での、股関節角度・骨盤底・腹横筋収縮の変化、多裂筋筋硬度を超音波画像診断装置にて計測し、若干の知見を得たので報告する。【対象と方法】対象は、健常成人男性6名を対象とした。測定については、超音波画像診断装置(TOSHIBA社製Aplio500)を用いた。方法は、予め股関節外旋制限のある下肢を介入下肢とした。内閉鎖筋への介入前の骨盤底・介入下肢側腹横筋・両多裂筋硬度を測定した後、股関節外旋角度を測定した。その後、内閉鎖筋に90秒リリースを行い、両多裂筋硬度測定後、外旋角度・骨盤底・腹横筋の測定を実施した。測定条件については、骨盤底筋は、測定1時間~40分前に500mL飲水し、膀胱に中等量の蓄尿をさせ、尿道孔と恥骨が描出できる断面とし、恥骨尿道孔間距離を安静時と骨盤底筋随意収縮時の変化量を骨盤底挙上量とした。腹横筋は、プローブを臍レベル水平線と腋窩線上の交点から2.5cm内方腹横筋が描出できる断面とし、呼気終末期の筋厚を測定した。多裂筋は、L5レベルで横断像を描出し、その中心部分の筋硬度を測定した。測定値は、介入前後、それぞれ3回ずつ測定しその平均を代表値とした。骨盤底筋と腹横筋は、多裂筋硬度の平均測定値をもとに増加群と低下群と分け、比較検討した。【結果】全例において股関節可動域は改善がみられた。多裂筋筋硬度については、介入側の方が、非介入側と比較し筋硬度が高い傾向にあった。(介入側15.26±8.44kPa非介入側13.46±4.75kPa)また、多裂筋筋硬度が、増加群では、非介入側についても同程度の硬度増加傾向がみられた。低下群においては、介入側と同様に非介入側も硬度が低下するものの低下の度合いに差がみられた。筋硬度については、介入により左右差がほぼない状態となった。(介入側13.01±1.92kPa 非介入側13.88±4.75kPa)骨盤底筋収縮においては、両群ともに挙上改善傾向にあるが、増加群においてわずかに挙上量が多い結果となった。(改善量 増加群5.20±2.15mm 低下群3.00±3.86mm)腹横筋収縮においては、増加群においてわずかに収縮低下傾向、低下群においては収縮改善傾向を認めた。【考察】内閉鎖筋への徒手的介入の即時効果として、股関節可動域改善、多裂筋硬度への変化、骨盤底筋・腹横筋の収縮機能への改善効果の可能性が示唆された。生方らは、慢性腰痛患者における多裂筋筋硬度は、健常者に比べ有意に低下し、腰痛群において疼痛側は非疼痛側に比べ高値を示すと述べている。今回は、健常者において徒手介入による変化がみられ、筋硬度が高い場合には、筋硬度が低下し、低い場合には、硬度があがり促通効果が得られる可能性が示唆された。また、最終的に筋硬度について、左右差がほぼない状態になったことを考慮すると、多裂筋筋硬度が、平均測定値程度であれば、骨盤底筋への収縮について改善が得られる可能性もあり、今後、さらに、LPH複合体の機能改善への徒手的介入の可能性を検討したい。【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に沿ったものであり,対象者には事前に研究の目的と内容を説明し,承諾を得た。