著者
平野 誠一郎 伊藤 均 望月 俊直 林 荘太郎 清水 完悦 野呂 忠慈 木川田 隆一
出版者
北里大学
雑誌
北里医学 (ISSN:03855449)
巻号頁・発行日
vol.15, no.5, pp.318-324, 1985-10-31

激しい運動直後に血圧が下降し,低血圧性失神すら起こるスポーツマンの1例について,その発生機転を追求した。血圧が正常のさいの臥位の循環動態は高分時心拍出量(CO)型を示し,末梢流血抵抗(TPR)の減りを伴った。treadmillによる運動負荷によって運動後低血圧症を誘発したさいの循環動態では,COの著しい減少をみ,そのさいに生じたTPRの増加は不充分で降圧を阻止しえなかった。この運動後低血圧症は静脈緊張を高めるdihydroergotamine服用により改善された。体位変換時や運動時の血漿catecholamineの増しは正常範囲で,降圧機転に交感神経緊張低下が重大に関与するとは思えなかった。運動後低血圧症の発生機転は今なお不明であるが,まず運動後に静脈側に大量の血液がとり込まれてCOを下げること,さらに交感神経β刺激に対する細動脈のhyperreflexia,あるいは運動時に生じたHessのNutritions reflexが運動後に存続したり,運動後の灌流圧減少に対して異常に強いBayliss効果が出現したりするような細動脈のautoregulationの異常がTPRの増加を不充分にすることなどが主な機転と考えられた。