著者
平野 貴大 Takahiro Hirano
出版者
同志社大学一神教学際研究センター(CISMOR)
雑誌
一神教世界 = The world of monotheistic religions (ISSN:21850380)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.99-119, 2019-03-31

本稿の目的は、現在のイランの最高指導者であるハーメネイーのシャイフ・ムフィード観を分析することで、現代のシーア派学者が同派とムウタズィラ派との教義上の類似性をどのように説明するのかを解明することである。その分析を通じて、ハーメネイーをムフィードの学統に繋がる中道的な法学者・神学者として位置づけることも目指す。欧米研究者の通説によれば、ムフィードはムウタズィラ派をイマーム派に導入した、もしくはムウタズィラ派に強く影響を受けた合理主義者であるとされる。ハーメネイーは欧米研究者のムフィード観を批判し、ムフィードは法学と神学における伝承主義と合理主義の中道的な学統の創始者であると主張した。シーア派がムウタズィラ派を導入したという主張を否定することは、ハーメネイー独自の学説ではなく、シーア派学者の間の定説となっていた。以上より、保守派/原理主義者とみなされる傾向にあったハーメネイーはムフィードの学統に繋がる中道的な法学者・神学者として再評価されるべきであるといえる。