著者
永井 聡 石羽 圭 広瀬 勲
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.2007, pp.C1384, 2008

【はじめに】 線維筋痛症(Fibromyalgia Syndrome 以下FMS)は全身に激しい痛みが生じる原因不明の疾患である。日本では約200万人は潜在するといわれるが、的確な診断や治療法がまだ確立しておらず疾患に対する理解も得られていない疾患である。今回股関節痛・腰痛を主訴とし、数年経過しFMSと診断され、疼痛に対し理学療法が効果を示した症例を経験したので報告する。<BR>【症例紹介】 51歳 女性、 病歴 2004年より、腰痛出現・体動困難にて他院で 椎間板ヘルニアと診断される。その後約2年間、腰痛に対し他院数箇所にて加療。2005年末、股関節痛出現、2006年他院にて股関節唇損傷の診断で関節鏡施行、この頃から全身に疼痛感じるようになる。2007年6月 当院受診、疼痛は股関節痛・頭痛・左肩・左肋骨・仙腸関節痛を強く訴え、疼痛の表現としては切られるような痛み、火傷のような痛み(アロディニア)と表現する。8月にFMSと診断される。11月現在も当院にて治療継続中。<BR>【理学療法評価】 初診時疼痛の訴えは強く、アロディニアによる機能障害を有していた。疼痛評価としてVASにて定量化を試みるが、日変化、多部位の訴えのため当初は9/10程度の強い疼痛部位ばかりであった。理学療法開始から5ヶ月で部位によっては半分の5/10程度まで疼痛感の改善がみられた。関節可動域の著明な制限は無く、筋力も選択的な筋力低下はなし。レントゲン上疼痛関節の構築的な異常所見なし。血液検査上も炎症所見、膠原病所見はなかった。 <BR>【治療経過】 当初は内服と温熱療法が主体の治療をおこなった。温熱終了時は効果みられたが、徐々に疼痛減少が認められなくなった。FMSと診断されてからFMS研究会の治療指針を参考に内服から下行性疼痛抑制系賦活型疼痛治療薬のノイロトロピン静注を開始した。その後温熱療法のみでなく静注後にボールExやバランスクッションなど外乱に対する自動運動、筋収縮、反応促通の運動療法を開始し疼痛感の軽減効果を認めた。<BR>【考察】 理学療法の介入は、当初疼痛対策に温熱療法を施行したが、即効性を示すものの、FMSのような症例には疼痛の訴えの減少は持続せず、疼痛確認すると逆に疼痛に執着する傾向になってしまった。ノイロトロピン開始により若干疼痛感が軽減してから、理学療法の戦略を運動療法の併用に転換すると、動作・反応の中で患者本人に疼痛を確認させると安静時に比較しアロディニア症状が改善し運動療法効果を確認できた。FMSはまだ治療のガイドラインが確立しておらず、従来は多岐に渡る疼痛訴えの患者に対しメンタルな問題などとして理学療法が関わることから逃避してきた感があるが、的確に診断し理学療法士が関わることで、疼痛に対する効果が検証されてくれば、治療のガイドラインとして理学療法も介入できると考えられる。<BR>