- 著者
-
広重 佳治
- 出版者
- 日本生理心理学会
- 雑誌
- 生理心理学と精神生理学 (ISSN:02892405)
- 巻号頁・発行日
- pp.1617re, (Released:2018-03-30)
- 参考文献数
- 31
WolfsonとCarskadon (1998)の科学論文は,たとえば性的思春期,学校スケジュール(始業時刻)そして学業成績などの重要な要因が青年期の子どもの就床時刻と起床時刻の遅れに影響を与えていることを強調し,そうした睡眠習慣の乱れが今度は日中の活動性の低下を招く可能性があるとした。本稿は彼らの研究の意義をわが国の睡眠教育との関連から再考した。まず,彼らの研究は子どもの睡眠習慣の疫学的,発達的アプローチの教育的意義を明確した。第2に,2002年の日本学術会議で承認された新しい学際的な睡眠科学である睡眠学の創設に寄与した。第3に,環境的圧力(学校スケジュール)が青年期の子どもの睡眠に与える影響を批判的に論じた。それは始業時間の遅延や昼休み中の仮眠の効果を実験的に検討する近年の研究を触発している。特筆すべきはWolfsonと Carskadon自らの結果を睡眠パターンと学業成績の1対1の対応関係を示すものではないと慎重に考察している点である。しかし,そうした考察は睡眠パターンを従属変数および独立変数として理解する点においてわが国の睡眠学には十分な紹介がされていないように思われる。もっとも注目される彼らの知見の一つは,学業を適切にこなすには少なくとも7時間20分の睡眠時間が青年期の子どもたちには必要であり,そうでなければ貧弱な睡眠習慣が日中の気分や行動に悪影響を与える可能性が大きくなるという事実である。これは青年期の子どもたちの睡眠をできる限り優先する環境の調節を必要としているということであり,わが国においても同様のことが言えよう。