著者
村田 周子 下川 仁彌太 庄井 香 宮新 美智世
出版者
一般財団法人 日本小児歯科学会
雑誌
小児歯科学雑誌 (ISSN:05831199)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.62-68, 2014-02-25 (Released:2015-05-30)
参考文献数
14
被引用文献数
1

外傷による脱落歯の再植において,その予後を左右する重要な因子の一つは,歯に残存している歯根膜細胞の活性度である。そこで,国内で市販されている2 種類の歯の保存液が歯根膜細胞の活性度に及ぼす影響を比較検討する目的で,以下の研究を行った。使用した保存液は,実験群としてTeeth Keeper NEO(TN)およびDentSupply(DS),対照群として生理食塩水(生食)および細胞培養液(培地),pH 緩衝剤であるHEPES を添加した生食(生食+HEPES),HEPES を添加した培地(培地+HEPES)である。ヒト若年者歯根膜細胞をこれら各保存液中で0.5~24 時間静置して各作用時間における細胞数(Cell Counting Kit-8 による吸光度測定)および細胞形態の変化を観察した。また,各作用時間における溶液のpH 変化も測定した。生食群や生食+HEPES 群は作用開始後早期に吸光度が著しく低下した。歯根膜細胞の形態は,全溶液のうち最も早期に紡錘突起の収縮や短縮が進み,球状化した細胞も多く見られた。また,培地群は12 時間作用以降吸光度の急激な減少が認められ,その時のpH は9 まで上昇していた。培地+HEPES 群は12 時間作用以降も吸光度の変化が少なく,歯根膜細胞の生存が示唆された。この時HEPES により培地のpH 上昇は8.3 以下に抑えられていた。TN 群とDS 群では吸光度が経時的に減少したが,短時間(6 時間)では細胞活性は保たれており,実験期間中両者の間に有意差は見られなかった。