著者
室 雅巳 庄野 秀明 庄野 真由美
出版者
佐賀大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

(1).正期単胎妊娠の胎児心拍数基線における周期性を明らかにする目的で、合併症のない37〜39週の正常妊娠9症例を対象に3日間の連続胎児心拍数(FHR)収録を行った。得られたFHRデータから10分間の区画毎に胎児心拍数基線(FHRB)を同定、各症例毎に最大エントロピー法によって得られたピークスペクトルからFHRBの時系列データに内在するリズムの周期を抽出し、あてはめ曲線を描出した。得られた曲線の日内変動最低点および最高点を示す時刻を各症例毎に求め各々の分布について検討した。その結果、正常正期妊娠におけるFHRBの日内変動は約24時間と約12時間の周期のリズムをベースに持ち、更に各個体の状況や環境因子に伴う種々のリズムが複合され、その表現型が形成されていると考えられた。(2).双胎間の胎児基準心拍数(BFHR)の日内変動位相の同期性と位相差を解析し、一絨毛膜二羊膜性双胎(MD)と二絨毛膜二羊膜性双胎(DD)の特徴を抽出する目的で、妊娠35〜37週の双胎妊娠15例(MD7例、DD8例)に対して24時間双胎心拍数同時収録を施行。収録したデータから症例毎に各々の双胎のBFHRを5分毎に同定し1時間毎の平均値を算出、各胎児のBFHRの日内変動の有無を検定した(ANOVA)。各症例で双胎間のBFHR日内変動位相差を求めるために第1子のBFHR日内変動に対して第2子の日内変動位相を-3〜+3時間の間で1時間づつ移動させた場合の両者間の相関係数をそれぞれ算出。最大Rを示す位相差を症例毎に求め、膜性による特徴を比較した。その結果全ての双胎両児のBFHRに有意な日内変動を認めた(p<0.01)。双胎BFHR間に全症例で有意な相関が認められ、MD、DDの平均最大Rの間に有意差は認められなかった。DDでは8例全てでBFHR日内変動の位相が完全に同期していた。一方、MDでは7例中3例でBFHR日内変動位相は同期していたが3例で第2子が1時間先進、1例で第1子が3時間先進しており日内変動に位相差を示す症例が認められた。以上より双胎間のBFHR日内変動はMD、DD共に高い相関を示すが、DDでは完全に位相が同期しているのに対してMDでは位相差が認められる症例が存在する。MDでは胎盤内血管吻合等による双胎間の循環動態の差異から胎児日内変動に関連する母体因子の移行に不均衡が生じる可能性があると考えられた。