著者
張 勝蘭
出版者
国士舘大学21世紀アジア学会
雑誌
21世紀アジア学研究 = Bulletin of Asian Studies (ISSN:21863709)
巻号頁・発行日
vol.20, pp.1-23, 2022-03-15

本論文は、清朝期及び民国期において実施された「改装」(身なりを変える)政令により、中国南部の代表的な少数民族である苗族の服飾がどのように変遷し、またそれが苗族アイデンティティに如何なる影響を及ぼしたのかについて貴州省を中心に考察したものである。苗族は過去に固有の文字を持たなかったため、文字の代わりに衣装の模様などに自民族の歴史を刻み込んでいるとされている。着る「史書」と言われている民族衣装は、苗族伝統文化の重要な表象であり、苗族アイデンティティの拠り所である。清王朝は中国西南地域を直接支配下に置いた後、そこに居住する苗族などの非漢族を「内地化」させるために、「改装」政令を制定した。その後の民国期に入っても、少数民族に対する「同化」が厳しく行われ、様々な「改装」政令が実施された。こうした政令政策が苗族服飾に大きな変遷をもたらすと共に、苗族アイデンティティに変化が及ぶようになった。強制的な「改装」政令は苗族の激しい抵抗を招いた一方、漢文化の影響を深く受けた苗族エリートたちの間では、自発的な「改装」を提唱する動きが出てくるようになった。その結果、苗族アイデンティティはより重層的になり、さらに高まっていった。