著者
徐 阿貴
出版者
お茶の水女子大学21世紀COEプログラムジェンダー研究のフロンティア
雑誌
F-GENSジャーナル
巻号頁・発行日
no.4, pp.93-101, 2005-09-01

本稿では、1990 年代に展開された、「従軍慰安婦」の真相解明と問題解決を目的とする在日朝鮮人女性を担い手とする運動について、女性の主体形成という局面から考察する。当初、韓国における「従軍慰安婦」をめぐる女性運動に触発された形で始まったこの運動は、「従軍慰安婦」という植民地支配に起因する性暴力の問題を扱いながら、現在も継続している、在日朝鮮人女性が直面する民族とジェンダーの交差における抑圧の問題を提起した。その意味で、この運動は、従来の男性中心的な在日朝鮮人の民族運動や、一国主義的な日本の女性運動の限界を可視化するものであった。本稿では、「従軍慰安婦」を焦点とした在日朝鮮人女性による自律的な運動体が生成した前提条件を探るために、まず、この運動における人的資源動員について分析する。さらに、運動の生成・展開・終結の局面を通じて形成された集合的アイデンティティを析出し、在日朝鮮人女性の新しい主体について考察する。