著者
志田 泰盛
出版者
日本印度学仏教学会
雑誌
印度學佛教學研究 (ISSN:00194344)
巻号頁・発行日
vol.61, no.3, pp.1108-1113, 2013-03-25

本論文では,クマーリラの代表的著作『シュローカヴァールッティカ(Slokavarttika)』に対するスチャリタミシュラによる註釈『カーシカー註(Slokavarttikakasikatika)』の未出版章の中から,音声[常住性]論題(sabdadhikarana/sabdanityatadhikarana)について,その一次資料(貝葉写本と転写)の系統の主観的な分析結果を提示する.大前[1998]が提供する『シュローカヴァールッティカ』とその註釈の書誌学的情報は網羅的であるが,註釈文献については『スポータヴァーダ章』を含む資料を中心に報告されている.そこで,大前[1998]に大きく依拠しつつも,改めて南インドの諸写本機関を調査し,3種のマラヤラム文字貝葉写本と3種のナーガリー文字転写が当該章をカバーすることを確認した.さらに,ベナレスのナーガリー文字写本も加え,7種の一次資料が利用可能な状況にある.これらの一次資料を校合し,欠損の一致やマラヤラム文字特有の読み間違いなどの情報に基づいた主観分析の結果として,大きく3つの系統が推定されることを示す.