著者
中田 裕久 土肥 博至 志田 隆秀
出版者
一般社団法人日本建築学会
雑誌
日本建築学会論文報告集 (ISSN:03871185)
巻号頁・発行日
no.306, pp.115-125, 1981-08-30
被引用文献数
6

以上の検討結果, 以下のことが明らかとなった。No.1大学キャンパスにおける学生の認知スコアで示される認知領域は移転直後から急速に拡大し, ほぼ1ヵ月という短期間で安定し, その後はゆっくりと拡大する。No.2この期間, 移動経験(行動量)の多い集団ほど認知領域は大きく, その移動経験は集団の居住地と主要な目的地の生活空間に占める位置関係により決定される。No.3空間の認知のされ易さを示す認知度をみると, 認知領域の拡大傾向が空間側からも認められ, まず居住地および目的地の周辺, 次に両者を結ぶルートの近辺から外周へと拡大して行く。No.4また, 空間の認知のされ易さに関連する空間要因として, その空間の属する地区の機能, 地理的位置, 生活空間内での動線上の重要度, 空間自体の特質があげられる(表-13)。No.5空間の特質についてみると, エッジとなりうる池空間>滞留が可能であり利便である広場・ペデ>幹線道路の順で認知され易い。小さな自然(池), サブペデ, 補助道路についても, ほぼ同様な傾向が認められる。No.6評価については, 肯定的評価と否定的評価とに差異が認められ, 後者として指摘される空間は前者に比べて安定的でなく(頻度が低い), ルートに代表されるように行動領域の拡大と共に次から次へと発見される傾向をもつ。No.7肯定的評価の得られる空間には, 数多くの人々に評価される自然的景観や滞留できるスペースを持つ空間の他に, 特定個人に安定的に評価される空間(小自然, 緑道等)がある。No.8評価理由をみると, 肯定的評価空間は視覚レベル, 否定的評価空間は行動レベルに近い理由で評価される。これらの傾向から, 環境の認知・評価, 行動の構造について, 次のようにまとめることができよう。(I)環境認知と行動の関係(No.1〜No.3)環境の認知はごく短期間のうちに安定化し, その認知領域は移動経験と正の相関関係にある。従って, 一般の生活空間における居住者の認知領域は移動体験などの経験行動によって形成されているものであり, ある特定の時間帯や期間の行動とは直接的には結びつかないものと考えられる。(II)環境認知と評価の関係(No.4〜No.8, 表-14)肯定的評価空間は共有性が高い空間と共有性は低いが安定性が高い空間の2つのタイプが存在する。前者は居住者全体にとって高い認知レベルにあり, 接触の度合も高い。一方, 後者は居住者全体の認知レベルと関係の弱い個人的な空間であり, その個人にとって独占性(排他性)を満たすことのできる空間構成, スケールをもっている。否定的評価空間は, 日常行動と密接に結びついており, 特に共有性の高い空間は日常ルートに結びついた高認知空間である。(III)環境認知の構造化過程(No.3〜No.5, No.7)認知の早期段階では, ペデや幹線道路といったパス空間よりも池周辺などが認知され易いことから, ある特色ある空間構成や大きなスケールを有する特定のポイント(エッジやランドマーク)が認知され, それらの位置関係や方向性を基準にパスが形成され, パスを「知っている」と認識するプロセスで環境認知の構造化がなされるものと考えられる。なお, 以上の解析は, 一般の都市空間に比して, 限定的な機能をもつ大学キャンパスというセッティングにおける学生という特異な集団を扱ったものであり, また, 環境的にも池, 広場, ペデ, 樹林地等の豊かな空間条件下における検討結果でもある。これらの制約を緩めて行くことが今後の課題であると考える。文末ながらHSNO 1並びにHSNO 2調査実施に当り, インタビュー調査を担当していただいた筑波大都市研究会の学生諸君, そして調査・集計の一連の解析を手伝っていただいた筑波大生柿下智子君に謝意を表わす次第である。