著者
志賀 向子
出版者
日本比較生理生化学会
雑誌
比較生理生化学 (ISSN:09163786)
巻号頁・発行日
vol.37, no.3, pp.180-188, 2020-12-01 (Released:2020-12-24)
参考文献数
34

概倍日リズムと呼ばれるおよそ2日周期のリズムは,これまでヒトや蚊で報告されており,このリズムは人工的な環境下で体内の概日時計が脱同調することにより生じると考えられてきた。一方,オオクロコガネでは,野外において成虫の出現やフェロモン腺の大きさに2日の周期性がみられる。本稿では,オオクロコガネの概倍日活動リズムを紹介し,その生理機構について議論する。野外で標識再捕実験を行った結果,オオクロコガネ成虫は同じ木にほぼ2日毎に繰り返し出現することがわかった。実験室の明暗条件では2日毎の夜に活動し,そのリズムは恒暗条件において約48時間周期で自由継続した。これより,オオクロコガネは明瞭な概倍日リズムを持って活動することがわかった。 また,光パルスに対する位相反応から,概倍日リズムは概日時計を使って形成されると考えられた。さらに,脳の微小破壊により,視葉内の概日時計と脳間部に存在する一部の細胞群が概倍日リズムの形成に関わると考えられた。オオクロコガネは,おそらく概日活動リズム形成にかかわる神経回路を改変して概倍日リズムを形成しており,そこには概日時計の周期を2倍にするしくみがあると考えられる。