著者
稲垣 芳則 保科 定頼 横田 徳靖 中里 雄一 恩田 啓二
出版者
東京慈恵会医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

我々は特発性細菌性腹膜炎(SBP)において最大の謎である感染経路の解明とSBPの迅速診断方法の開発を目的に以下の研究成果を得た.1.Thioacetamide投与による肝硬変ラットではSBPの発症が認められたが,コントロールラットでは認められなかった.2.SBPは腸内細菌の増殖が大腸より下部小腸に起こるときに発症しやすいと考えられた.3.SBP発症時腸内細菌の増殖した腸管の支配リンパ節には細菌の移送を認めたが門脈血および末梢血には認めなかった.4.SBP発生機序における腸内細菌の腹腔内への侵入経路の一つとして直接腸管壁の経由が強く示唆された.5.培養で菌が検出できない腹水でも,原核生物特有の塩基配列をPrimerとしたPCRでは腹水中の微量大腸菌あるいは死菌が検出できた.仮説では腸管内から腹腔内への細菌の侵入経路は(1)血行性,(2)リンパ行性あるいは(3)腸管壁から腹腔内へ直接,の3つの経路が考えられていた.今回の研究によりSBPでは(1)(2)の経路より,(3)の経路の可能性が最も高いとの結論を得た.またSBPの発症は必ずしも腸内からの生菌の移行だけでなく,むしろ死菌や菌体成分や腹水中で免疫反応を起こすことがSBPの本質であると推測した.一方,臨床例の検討でも腹水培養で細菌が証明されることは少ない.腹水中の細菌のDNAをPCRで検出する方法は感度が高く迅速診断が可能で,SBPの診断に有用であると考える.ただし消化管穿孔に起因する続発性細菌性腹膜炎とSBPとの鑑別が臨床上困難であることは今後の課題である.