著者
愈 勤楠
出版者
大阪体育大学
雑誌
大阪体育大学紀要 (ISSN:02891190)
巻号頁・発行日
vol.37, 2006-03

ショート・トラック・スピード・スケート(以下ショート・トラック)は,氷上スケート競技の一つで、滑走タイムを問わず、順位を争う競技である。これまでのスケート研究はスピードスケートに関するものが多く、ショート・トラックの研究は少ない。本研究では、ショート・トラックにおける動作と筋活動の特徴を明らかにし、体力的なトレーニングに役立つ知見を提供しようとした。日本の著名なショート・トラック女子選手3名を対象に、スタート時の三次元動作分析と筋活動の測定を実施した。動作分析用のためにデジタルビデオカメラ2台を使用し、毎秒60コマで撮影した。その映像を基に、DLT法を用いて膝関節、足関節、股関節の屈曲・伸展角度と股関節の内転・外転・内旋・外旋角度について分析した。筋電図(EMG)は、右下肢8ヵ所の筋(中殿筋、大殿筋、大内転筋、外側広筋、大腿二頭筋長頭、前脛骨筋、腓腹筋内側頭)について表面電極による双曲誘導法により導出した。足が着氷しているキック期と足が離氷しているスイング期に分けて積分し、平均振幅を算出し、最大筋力発揮時の相対値(%aEMG)を求めた。分析結果から以下のことが明らかになった。股関節は、常に外転位にあり、身体全体を内側に傾けてキック力を発揮していた。この際、中殿筋の働きが確認できたことから、ショートトラックに特徴的な筋活動であり、積極的にトレーニングすべき対象の筋であると考えられた。膝関節は伸展しながらキック動作をしていた。膝関節伸筋群のトレーニングは大腿直筋の働きを抑制しながら股関節を伸展する状況で実施する必要があると考えられた。足関節は屈曲して、身体を前傾位に保ちながらキックしており、そのため前脛骨筋が積極的に活動していたことが分かった。これはショートトラック独特の動作であり、前脛骨筋はトレーニングにおいて重視しなければならない筋であると考えられる。