著者
横平 政直 山川 けいこ 成澤 裕子 橋本 希 松田 陽子 今井田 克己
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
vol.46, pp.S6-3, 2019

<p> 現在でも胸膜悪性中皮腫の発生率は上昇しており、特にアスベストの生産・輸入に関する規制の緩い国ではその傾向が顕著である。我々はこれまでに、アスベストに類似したK<sub>2</sub>0・6TiO fiber (TISMO)の毒性についての評価を行ってきた。TISMOの胸膜への影響を検索するため、できるだけ多くの被験物質を胸膜に暴露させることを目的に、開胸下に直接被験物質を胸腔内に投与する方法を用いた。</p><p> A/Jマウスの左胸腔内に同成分でサイズや形状の異なる3つの微粒子(TiO<sub>2</sub> micro size particle、TiO<sub>2</sub> nano size particle、TISMO)を投与する実験を行った。実験開始21週目に針状のTISMO投与群のみ肺胸膜の肥厚が見られ、球状のTiO<sub>2</sub>微粒子投与群は大きさに関係なく胸膜の変化は認められなかった。TISMOはアスベストに似た形状を有する針状粒子であり、胸膜悪性中皮腫の発生原因も危惧される。そこでTISMOの左胸腔内投与後、長期間(2年以上)飼育する実験を行った。その結果、肺胸膜の著明な肥厚を再確認し、さらに異型を伴う中皮細胞の出現が観察された。驚くべきことに、TISMO粒子は胸腔内投与にも関わらず、多臓器(肝、腎、脾臓、卵巣、心、骨髄、脳実質)で確認され、広範な播種が認められた。</p><p> また、TISMOの経気道暴露を想定して、気管内投与による実験も行った。TISMOが誘発する肺実質内の炎症所見は軽度であり、人への吸入毒性が低いとされる炭酸カルシウム微粒子(チョークの粉)とほぼ同程度であった。このように、経気道的に侵入したTISMOは、気管支および肺実質内での炎症誘発作用は乏しいものの、胸膜に到達すると強い反応性変化を誘発することが判明した。</p><p> 以上より、TISMOの胸膜への影響、および呼吸器系から体内に侵入したTISMOが多臓器に分布するリスクが明らかとなった。</p>