- 著者
-
成瀬 麻夕
川畑 智子
- 出版者
- 北海道社会学会
- 雑誌
- 現代社会学研究 (ISSN:09151214)
- 巻号頁・発行日
- vol.29, pp.43-61, 2016 (Released:2017-08-31)
- 参考文献数
- 18
ハラスメントは深刻な人権問題である。本稿ではこれまでの調査結果をもとに,日本のハラスメント対策の現状について考察する。まず,全国の大学におけるハラスメント概念の特徴について統計的に検討した結果,日本の大学が「ハラスメント」と見なす行為は多様であることが明らかとなった。このことから,日本の大学のハラスメント認識には統一見解が存在せず,各校が個別にハラスメント対策を行っている現状が浮き彫りとなった。本調査では,「セクシュアル・ハラスメント」事例を通して日本のハラスメント概念の特徴を分析した。分析軸としてハラスメント対策の先進国であるイギリスのハラスメント概念に基づく行為水準を参考にした。その結果,日本の「セクシュアル・ハラスメント」概念は迷惑行為から犯罪行為に至るまでの様々な行為を含む,包括的なカテゴリーとして位置づけられていることが明らかとなった。一方で,そのような日本の「セクシュアル・ハラスメント」概念の登場によってハラスメントそのものの概念構築ができず,ハラスメントの定義が確立されてこなかった。その背景には,日本では「セクシュアル・ハラスメント」対策が先駆けて整備されたという経緯がある。このことによって,日本では様々な行為水準で分類されたハラスメント概念が恣意的に構築される結果となった。今後は,諸外国のハラスメント対策を参考に,日本でも人権意識に基づいたハラスメント概念の構築とそれを基本とする実態把握の方法の確立が急務である。