著者
所 崇 北島 勲
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1687-1692, 2003-12-15

1.サイトカインの特徴 サイトカインとは,免疫担当細胞に代表される様々な細胞から産生される生理活性物質である.サイトカインの特徴を以下に列挙する1). 1) サイトカインは糖蛋白である 多くのサイトカインは糖蛋白であり,分子量約1~10万である. 2) サイトカインは微量で作用する in vitroで,サイトカインはpg~ng/mlの微少な濃度で十分に生理活性作用を示す.一方では,ある一定の濃度以下では生理活性は示されず,作用が発揮される閾値が存在する.また,一定の濃度以上ではプラトーに達してしまうこともある. 3) サイトカインは主に産生された局所にて活性を示す サイトカインは,産生された局所にて活性を示すことが多い.その一例として,関節リウマチの滑膜組織では,インターロイキン1(IL-1)や腫瘍壊死因子(TNF-α)などが大量に産生され,破骨細胞を活性化し骨破壊が起こることが挙げられる. 4) 単独のサイトカインが複数の生理活性作用を示す 多くのサイトカインは1つの分子であるにもかかわらず,多彩な生理活性作用を有する.例えばIL-1は,免疫系の賦活作用以外に,白血球や破骨細胞,血管内皮細胞,滑膜細胞,線維芽細胞など様々な細胞に働き,その活性化を引き起こす.これはサイトカインの“pleiotropy”とも呼ばれる. 5) サイトカイン産生細胞が多様に存在する サイトカインを産生するのは単一の系列に属する細胞群に限らない.IL-1を例に挙げると,マクロファージからだけでなく,T細胞,B細胞,NK細胞,多核白血球,血管内皮細胞,滑膜細胞,皮膚のランゲルハンス細胞など,様々な細胞から産生される. 6) 異なるサイトカインが同一の作用を有する IL-1とTNF-αの生理活性はほぼ同一であり,また産生制御機構も極めて類似している.これをサイトカインの“redundancy”と呼ぶ.このように一見無意味に思われる現象であるが,生体内ではこの現象により危険回避をしている可能性が推定できる.それは1つのサイトカイン遺伝子が何らかの原因によって異常を起こしても,別のサイトカイン遺伝子がこれをカバーするからと考えられている. 7) サイトカインは相乗的あるいは拮抗的に働く IL-1やTNF-αなどの炎症性サイトカインは同時に複数存在することで,その作用が相乗的に働く.つまり,複数のサイトカインが低い濃度で産生されたときに,単独で働かなくても,それらのサイトカインが同時に存在することで,相乗的に強い活性を示す.この現象は炎症反応における増悪・慢性化に関わっている.またIL-10はマクロファージに作用することで,IL-1やTNF-αの産生を間接的に抑制する.IL-4やIL-13もIL-10同様の作用を持ち合わせており,抗炎症性サイトカインとして注目を集めている. 8) 正のフィードバック機構を有するサイトカインカスケードの存在 1つのサイトカインが産生することで,次のサイトカイン産生が誘導される.このような現象を“サイトカインカスケード”,または“サイトカインネットワーク”と呼ぶ.例として,IL-1が産生されるとTNF-α,IL-6,IL-8,GM-CSFなどの産生が誘導される.炎症反応において,IL-1が産生されることで,さらにIL-1産生が誘導されるという正のフィードバック機構が働くことが知られている. 9) サイトカインインヒビター・アンタゴニストの存在 サイトカインにはインヒビター,またはアンタゴニストが存在する.例えば,IL-1アンタゴニスト(IL-1ra)はIL-1と構造が似ているために,IL-1レセプターと競合的に結合する.すなわちIL-1の活性を特異的に阻害することになる.IL-1raはIL-1レセプターと結合しても,IL-1のように細胞内シグナルを伝達しない.またIL-1raを産生する細胞は,同時にIL-1も産生する.つまり,同じ細胞がIL-1,IL-1raを産生することで免疫応答の調節をしているということがいえる. 10) サイトカインは正と負両面の作用を有する サイトカインは生体の恒常性を保つうえで必要不可欠な存在である.一方で,炎症反応により過剰産生され病態の増悪・慢性化につながる.例えば関節リウマチ患者の関節滑膜ではIL-1,IL-6,TNF-αなどの炎症性サイトカインが大量かつ持続的に産生される.これにより滑膜細胞の増殖,破骨細胞の活性化,軟骨細胞の破壊が起こり,関節組織が破壊される.またサイトカインがサイトカイン産生を誘導し,炎症の慢性化を引き起こす.
著者
別所 崇
出版者
奈良大学大学院
雑誌
奈良大学大学院研究年報 (ISSN:13420453)
巻号頁・発行日
no.13, pp.59-76, 2008

本研究は、個人の他者とのつながり方が、心理的距離の取り方にどのように反映されるかを、Wilfred,Bion(1961)の原子価の概念に基づき検証するものである。対人関係における自他の距離感には、パーソナル・スペースに代表される物理的距離感と、相手との親密度などに応じて決定される心理的距離感がある。しかし、先行研究にみられる心理的距離の研究では個人の特性や親密さの観点から心理的距離をとらえることが多かったように思われる。しかし、距離というからには、自分と相手という二者を考える必要がある。そこで本研究では、自分と他者との連結からみた心理的距離を、Bion(1961)の唱えた原子価の概念を利用し、さらにそれを発展させたHafsi(1997,2006a)の理論をもとに、ある空間における二者間の打ち合わせ場面を想定し、自分と相手の座席選択行動に、どのような違いが見られるかについての仮説を立て、新しく作成した対人心理距離尺度を使用し、原子価の観点からの検証を試みた。その結果、原子価が心理的距離の取り方に影響を及ぼす、ということが実証された。これにより、本研究では、自分と他者との連結から見た心理的距離についての新たな視点が示唆された。