著者
手塚 貴子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.61, 2018

【目的】<br><br>改正教育基本法以降、平成28年12月21日に中教審答申が出された次の学習指導要領においても、引き続き「伝統や文化に関する教育の充実」が掲げられており、家庭科での内容にも「和食、和服及び和室など、日本の伝統的な生活文化の継承・創造に関する内容の充実」が求められている。しかしながら、首都圏では家族のライフスタイルが多様化し、年中行事を祝う心が希薄化傾向にあり、行事準備への合理化・外部化の比率も年々増加している。生徒や保護者世代でも、「年中行事に興味・関心が無い」、「家庭で行事食を作ったことが無い」人が多くいる。例えば、多忙さや居住環境を理由に、「ひな人形」や「兜」、「鯉のぼり」等を一切飾らない家庭も増加しているのが現実である。<br><br>そこで、行事食における和食文化の継承・創造を目的として、高校生に向けた授業実践を行うこととした。<br><br>【方法】<br><br> 平成30年2月13日~2月28日に、東京都の私立T高校2年10クラス対象に「家庭基礎」の授業実践として、「上巳の節句(3月3日)又は端午の節句(5月5日)のどちらかを想定して調理実習を演出する」取組みを行った。事前学習として、調理実習当日に使用するための演出作品を手づくりで準備させ、本番までに創意工夫を凝らし、行事食を彩るテーブル演出を含めた調理実習を実践した。この授業を通じて、日本の伝統文化の一つである年中行事の風習が何故行われてきたかを考えさせるとともに、行事を祝う食(=行事食)を手づくりすることの重要性を学び、自らの生活で生かすための実践の場として行うこととした。実習時期を考慮すると、「上巳の節句」のみを課題とする授業運営が理想だが、本実習では発展的調理学習の一つとしてグループ選択制のメニューを一つ設けて綿密な実習計画力を構築させることとした。また、昨今増加しているアレルギー保持者への配慮として小麦粉食材と米粉食材の二種類の和菓子を設け、負担無く取り組めることを意識しての選択制とした。実習当日の準備時間を前週に設けたが、それ以外にも冬休みでのホームプロジェクト活動として行事食を演出するための作品づくりを行うことを一つの選択肢として用意をした。<br><br>【結果および考察】<br><br> T高校は、東京都にある私立中高一貫の高校(共学)で、多くの生徒が国公立大学や難関私立大学を希望しているため受験指導を主に置いた進学校である。2年生3学期は特に、入試や模試等によりどのクラスも連続した授業運営を実施することが難しい。そのため、冬休み前から事前指導を行い、調理実習に向けた意識付けと準備作業に取り組ませた。<br><br> テーブル演出の準備において、それぞれのグループで創意工夫が見られた。具体的には、「手芸で雛人形製作、皿を事前に焼く、切り細工でのランチョンマット製作、折り紙細工での飾りつけ」等である。しかし、献立の中に「チャーシュー」を入れたことで行事食らしさのイメージが生徒に伝わりにくかったこと、行事食の代表菓子である「さくら餅」や「かしわ餅」を作ったことがない生徒がほとんどであったため、調理工程のイメージがつきづらく、想定以上の作業時間が必要であることなどの反省が見られた。<br><br>首都圏の生徒にとって、和食文化の継承の一つに「行事食」の授業実践を行うことは、家庭教育で学ぶ機会がほとんどない中で貴重な体験の一つとなり、今後も継続して取り組むことが重要である。また、同時期に首都圏の高校生対象に「和食文化の継承に関するアンケート」を実施したが、その分析報告については次回の課題としたい。