著者
掛貝 祐太
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.177-197, 2017 (Released:2021-08-28)
参考文献数
37

1990年代のスイス財政は債務残高増加のなかで緊縮路線・新自由主義路線を基調としていた。同時期の欧州では地方政府の実質負担増がみられるが,90年代に議論されたスイスの財政調整制度改革(NFA)は,最終的にむしろ財源力の弱い州からの支持を集めて成立した。この政治的過程について連邦・州間の合意形成に焦点を当て,制度・歴史・政治的考察を図ることで,当初の目標から部分的に乖離しながら政治的妥協と協調が前景化する過程を追跡し,なぜ極端な地方政府の弱体化を避けることができたのかを明らかにする。
著者
掛貝 祐太
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.228-246, 2018 (Released:2021-08-28)
参考文献数
30

スイスでは,1990年代初頭の経済・財政状況の悪化に対して,91年および95年にエコノミスト・財界人が発行した通称「白書」と呼ばれるレポートは,極めて明白な新自由主義路線改革を打ち出し,連邦政府関係者のみならず一般層にも読まれるなど大きな衝撃を与えた。同レポートは事実上の政府路線となったと先行研究では評価されている。しかし,同レポートでの具体的な制度提案と,政治的意思決定過程を経たのちの90年代の制度改革の結果を比較すると,同レポートが実際の財政構造に与えた影響は限定的である。実際には,コンセンサスを要する政治構造により,財政再建に関しても「白書」で主張された歳出削減策には一定の歯止めがかかり,むしろ付加価値税の導入など歳入面の改革が進み,とりわけ90年代前半に構造的財政赤字の削減に成功したことが分かる。こうした分析を通じ,スイスにおける新自由主義改革の文脈とそれに対する抵抗の動態を明らかにする。