著者
斎藤 みほ
出版者
日本子育て学会
雑誌
子育て研究 (ISSN:21890870)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.42-55, 2019 (Released:2019-09-30)
参考文献数
29

本稿は、日本の子育てにおいて進行しつつある「子育ての社会化」に着目し、その現状と課題について概観した上で、「社会化」のあり方を見直そうとするものである。 現在の日本で「子育ての社会化」が提言される場合、子育ての責任の一端を担うべき「社会」はたいてい、政府や地方自治体といった公的機関、公的システムとして捉えられている。つまり、子育てを家庭内での私事から、自治体などの公的領域が担うべき公事へと転換する方向で進められてきた。しかし、そこには子育てを「私/公」といった二元論的観点から探ることによる問題と行き詰まりが生じている。本稿では、「私/公」という観点を脱する一つの方途として、子育てを「共同化」という形で社会化した、共同保育所について見直し、当時の記録から父母や関係者たちが育児を共同化する過程を検討した。結果、そこには「自分の子もよその子もいっしょに」という親たちの「よその子」も含み込むような私事的意識の領域の拡張とその意識の相互化を軸とした、「子育ての/による社会化(共同化)」、すなわち私事/公事の二元論を超えた「共事」(コモン)としての子育てという可能性が示された。