著者
佐藤 浩一
出版者
日本子育て学会
雑誌
子育て研究 (ISSN:21890870)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.9-20, 2018 (Released:2019-01-25)
参考文献数
48

本研究は、国内における体系的でエビデンスに基づくいじめ防止プログラムの開発に向け、各国のいじめ防止プログラムの内容を分析し、効果的いじめ防止要素を抽出・検討することを目的とした。各国のプログラムを概観すると、働きかけは「ソーシャル・エモーショナルラーニング」が中心となっており、実施手順は「システム化」され、プログラムのEBP性についても問われるようになっている。近年のいじめ対策は、当事者だけへの働きかけから、学校・家庭・地域も含めた全校的取り組み(エコロジカルアプロー チ)へのシフトや、諸科学やメソッドの統合化などの傾向がみてとれ、働きかけの対象とその特性の「包括的なアプローチ」が必要とされている。
著者
木田 千晶 鈴木 裕子
出版者
日本子育て学会
雑誌
子育て研究 (ISSN:21890870)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.15-28, 2020 (Released:2020-10-20)
参考文献数
27
被引用文献数
1

本研究では、「ママ友」との関係が構築されるプロセスを通して、子育てをする母親らの「ママ友」という存在の捉え方を明らかにすることを目的とした。それによって、変わりゆく社会の中で母親たちが求める子育て支援のあり方を検討するための基礎資料を得る。対象者は、第1子を幼稚園に通わせた専業主婦である母親7名である。妊娠の判明から就学直後までの他の母親との関係を半構造化面接によって調査し、修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチを用いて分析した。 その結果、4つのカテゴリー【存在を認識】【関係の質の判断】【自分の中での位置づけ】【関係の進展】及びそれに含まれる11のサブカテゴリー、32の概念が作成された。母親たちが「ママ友」という存在を捉えるとき、【存在を認識】することによって「ママ友」を意識し始め、多様な【関係の質の判断】をしながら、【自分の中での位置づけ】を行い、その後、【関係の進展】を経験することが認められた。母親らにとっての「ママ友」は、繰り返される関係構築のプロセスにおいて、その存在の捉え方が変化し続けることが示された。「ママ友」は、母親自身の子育て状況や周囲の環境の変化によって、ポジティブな存在にもネガティブな存在にもなり得る、決して安定した存在でないことが示唆された。
著者
川上 清文
出版者
日本子育て学会
雑誌
子育て研究 (ISSN:21890870)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.3-7, 2014 (Released:2018-10-05)
参考文献数
14

本論文の目的は、子どもたちの保護者・教師・多くの分野の研究者に村井実の“ よさ理論” を紹介することである。村井による教育の定義は「子どもは“ よく” 生きようとしている。大人は、子どもたちのその働きを助けようとする。大人のこの活動を“ 教育” と呼ぶ」というものである。村井理論の重要な点は「子どもは“ よく” 生きようとしている。しかし、私たちは“ よさ” とは何か決めることができない。これが教育のパラドックスである」ということである。この論文では、“ よさ” に関するいくつかの例を呈示する。
著者
斎藤 みほ
出版者
日本子育て学会
雑誌
子育て研究 (ISSN:21890870)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.42-55, 2019 (Released:2019-09-30)
参考文献数
29

本稿は、日本の子育てにおいて進行しつつある「子育ての社会化」に着目し、その現状と課題について概観した上で、「社会化」のあり方を見直そうとするものである。 現在の日本で「子育ての社会化」が提言される場合、子育ての責任の一端を担うべき「社会」はたいてい、政府や地方自治体といった公的機関、公的システムとして捉えられている。つまり、子育てを家庭内での私事から、自治体などの公的領域が担うべき公事へと転換する方向で進められてきた。しかし、そこには子育てを「私/公」といった二元論的観点から探ることによる問題と行き詰まりが生じている。本稿では、「私/公」という観点を脱する一つの方途として、子育てを「共同化」という形で社会化した、共同保育所について見直し、当時の記録から父母や関係者たちが育児を共同化する過程を検討した。結果、そこには「自分の子もよその子もいっしょに」という親たちの「よその子」も含み込むような私事的意識の領域の拡張とその意識の相互化を軸とした、「子育ての/による社会化(共同化)」、すなわち私事/公事の二元論を超えた「共事」(コモン)としての子育てという可能性が示された。
著者
堀口 康太
出版者
日本子育て学会
雑誌
子育て研究 (ISSN:21890870)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.16-26, 2018 (Released:2018-10-02)
参考文献数
50

本論文は児童家庭支援センターが児童家庭相談においてどのような役割を果たしてきたか各種の報告を通して検討し、今後の児童家庭相談において、児童家庭支援センターが果たしていくべき役割を検討することを目的とした文献研究である。児童福祉法の改正や設置運営要綱の改正の流れに沿って、便宜的に 3 つの段階 (1. 創設から 2004 年児童福祉法改正まで、2.2004 年児童福祉法改正から 2012 年設置運営要綱改正まで、3.2012 年設置運営要綱改正後から 2017 年まで ) を設定し、児童家庭支援センターが果たしてきた役割を整理した。整理した結果から、今後の児童家庭支援センターに求められている役割を検討したところ、児童家庭支援センターが行っている各事業が児童家庭相談の中で一貫して継続的に提供されていないことが役割を不明確にしている理由であり、今後は予防的観点から要保護児童等やその家庭に対して一貫して継続的に支援を提供し、地域包括ケアシステム構築に重要な児童家庭相談における中核的機関としての役割を担うことが必要であると整理された。最後に、中核的機関としての役割を担う上での課題が整理された。
著者
川上 清文
出版者
日本子育て学会
雑誌
子育て研究 (ISSN:21890870)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.3-8, 2016 (Released:2019-01-25)
参考文献数
10

マイケル・ルイス(Michael Lewis)は、発達心理学のリーダーのひとりである。本論では彼の論文や著書に基づき、彼の自己発達理論を要約する。彼の理論は、発達研究者・保育者・親にとって重要な視点をもたらすに相違ない。彼は自己発達において2つの標石を想定している。生後1年半頃と2、3歳である。生後1年半頃、子どもたちは “意識(自己参照行動)” を獲得する。この “意識” の指摘こそが彼の理論の中核であり、彼の理論の独創性を示す。生後2、3歳で子どもたちは “自己意識的評価情動” を持つ。ルイスによるとヒトと大型類人猿だけが “意識” を持ち、ヒトだけが “自己意識的評価情動” を持つ。ルイスの理論はデータに基づいている。ゆえに彼の理論は、より多くのデータの裏付けにより洗練されていくであろう。
著者
堀口 康太
出版者
日本子育て学会
雑誌
子育て研究 (ISSN:21890870)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.3-15, 2022-03-31 (Released:2022-09-30)
参考文献数
23

本研究の目的は、タイムスタディ法を用いて児童家庭支援センター(以下センター)が児童家庭相談に おいて包括的で総合的な支援を提供する役割を担うために必要な課題を検討することであった。研究協力 者は、首都圏の4 センターに勤務する15 名の職員であった。勤務形態は常勤(兼務含)が8 名、非常勤が 3 名、無回答が4 名、職種は相談員が9 名、心理士が3 名、その他が1 名、無回答が2 名、勤務年数の範 囲は1 年未満~ 11 年であった(無回答6 名)。各協力者には、勤務日の業務を記録するための自記式の調 査票を配布し、勤務日において、「何を、どのくらいの時間行ったか」について回答を求めた。調査期間は 2019 年11 月18 日から12 月15 日までの4 週間(実勤務日20 日間)であった。分析の結果、所内面接や カンファレンスと比較すると、アウトリーチ型の支援の件数、所要時間が相対的に少ないこと、子どもや 保護者と会える機会を活かした5 分から15 分程度のモニタリング、アセスメントのための電話相談や所内 面接を行っていること、主な連携先は児童相談所や市の児童家庭相談であることが示された。これらの結 果から、アウトリーチ型の支援を展開できる体制整備、機会を活かしたモニタリング、アセスメント機能 があることを周知すること、学校、保育園等の地域の関係機関との連携を促進することが、今後取り組む べき必要のある課題であることが示唆される。
著者
須貝 香月
出版者
日本子育て学会
雑誌
子育て研究 (ISSN:21890870)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.37-44, 2017 (Released:2018-11-09)
参考文献数
15

「発達障害者支援法」が平成17年に施行され、障害の早期発見・早期対応の体制づくりとともに家族を 含めたトータルな支援が進められている。しかしながら早期発見の難しさや、性差によって診断の時期が異なるという問題が指摘されている。親が支援を求める時期を明らかにすることを目的として自発的にペアレントトレーニングに参加している発達障害児の親を対象に調査紙を用いて、支援を求めるときの児の年齢や性別の分布を明らかにした。さらに、支援を受けに来る親の特徴として育児不安や抑うつ傾向につ いて調査し、児の性別により比較した。親の受講開始時の児の平均年齢や親の抑うつ傾向に性差による有意な差は認められなかった。しかし、4歳の男児の親が突出して多いのに対して女児の親はある年齢で特に多いということはなく、幼児から中学生まで広範囲にわたっていた。女児の親は児に対する否定的育児感情や育児多忙感が男児の親よりも有意に高く、児に対してネガティブな反応が多かった。発達障害児の早期発見・早期療育がうたわれ、その体制づくりが中心となっている現在、年齢が高じても子育てに困る親への支援の構築の必要性が示唆された。
著者
扇原 貴志 村井 潤一郎
出版者
日本子育て学会
雑誌
子育て研究 (ISSN:21890870)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.3-12, 2012 (Released:2020-09-30)
参考文献数
35

本研究の目的は、第一に、大学生が最もイメージする「子ども」の年齢層を調査により定義し、第二に、それに基づき大学生の「子どもへの関心」の程度を測定する尺度を測定し、それに関連する要因を探ることである。まず予備調査として大学生115名に「子ども」として最もイメージする年齢層を尋ねた結果、全体の約67%が「3~6歳の幼児」を挙げた。従って本調査では「子ども」を「(3~6歳の)幼児」と定義して検討した。本調査では、保育学、心理学を専攻する大学生247名を対象とした。その結果、子どもへの関心尺度は「好意的注目」「同情」「好奇心」「寛容性」の4下位尺度から構成されていた。この尺度について信頼性と妥当性を確認した後、関連する要因を検討した結果、幼児との接触経験が多い程、子どもへの関心が高い傾向にあった。また、「好意的注目」「好奇心」では女性の方が得点は高く、専攻別では全下位尺度で保育学専攻の方が得点は高かった。以上のことから、子どもへの関心は幼児との接触経験によって促進され、女性で高く、子どもを扱う学問を専攻する者で高いことが示唆された。