著者
前田 仁一郎 斎藤 清克
出版者
日本地質学会
雑誌
地質学論集 (ISSN:03858545)
巻号頁・発行日
vol.47, pp.75-85, 1997-04-24
参考文献数
55
被引用文献数
4

日高火成活動帯では古第三紀の苦鉄質深成岩体が白亜紀後期から古第三紀初期の付加体の中に貫入している。日高山脈には苦鉄質深成岩類・高温型の変成岩類・アナテクサイトからなる日高火成活動帯の地殻断面が露出している。この地殻断面から2つの性質の異なったマントル由来未分化マグマ, Nタイプ中央海嶺玄武岩(N-MORB)質と高Mg安山岩(HMA)質, が見いだされた。N-MORBとHMAの組み合わせは海嶺と海溝の衝突モデルによって説明することができる。すなわちNMORBはクラー太平洋拡大軸にそって上昇するアセノスフェア(レルゾライト質, ε_<Sr>-27. 79, ε_<Nd>-+10. 71)に由来し, HMAは海嶺沈み込みによってもたらされた熱異常によって上盤プレートのくさび状マントル(ハルツバーガイト質, ε_<Sr>=+2.17, ε_<Nd>=+2.84)から発生した。マントル由来未分化マグマの付加体底部への透入によってグラニュライト相に達する高温型変成作用とアナテクシスが発生し, 珪長質の変成岩類とカルタアルカリ質のマグマが形成された。マントル由来未分化マグマの地殻内での分化作用は付加体構成物の同化作用を伴った。マントル由来マグマとアナテクシスによる地殻由来メルトとの混合もまたカルクアルカナ質の火成岩類をもたらした。すなわち, 以上のようなプロセスの複合によって未成熟大陸地殻が前弧域で形成される。付加体と衝突する海洋底拡大軸の火成作用と変成作用は, 玄武岩組成の海洋地殻が形成される通常の中央海嶺でのそれらとは著しく異なる。これら2つのセッティングの比較から, 大陸地殻の形成にとって厚い堆積岩類が本質的に重要な役割を果たしていることが示される。海嶺の沈み込みは始生代の大陸地殻の成長にとって重要な事件であったであろう。日高火成活動帯で観察されたマントル由来マグマの迸入によって誘発される地殻内マグマプロセスは火成弧深部のそれのアナログである。