著者
斎藤 雅彦
出版者
社団法人日本循環器学会
雑誌
JAPANESE CIRCULATION JOURNAL (ISSN:00471828)
巻号頁・発行日
vol.39, no.12, pp.1345-1355, 1976

1.食用ガエル心房筋の摘出標本について,膜興奮から張力発生に至る過程への温度1の効果を2重隔絶膜電位固定法を用いて検討した.2.心房筋を高温(3℃)から(4℃)に冷却するとき,膜のわずかな脱分極,活動電位の振巾の増大とその持続時間の顕著な延一長にともない,静止張力の減少と,単収縮張力の著しい増大が出現し,加温すればいずれにおいても可逆的な復元が認められた.3.膜電位を静止電位レベルに維持し,数秒おきに1秒間の矩形波脱分極固定を行った場合にも,冷却により単収縮張力は増大し,静止張力は減少した.この所見は低温による単収縮張力の増強が活動電位の.単なる延長のみによるものでない事を示す.4.このさい,矩形波脱分極固定に対する終末電流ならびに容量性電流は減少し,また,活性内向き電流の経過は遅延し,外向き遅延電流は著しく抑制された.5.TTX(10<SUP>-7</SUP>g/ml)存在下でも低温により単収縮は増大し,静.上張力は減少した.また遅い内向き電流の増強ないし遅延電流の抑制も認められた.6.正常リンゲル液中の膜電位一電流特性から,冷却による遅い内向き電流の増強と,遅延電流の抑制は別個に出現する現象であることが推測された.また冷却により活動電位の振巾は増大し,内向き電流の逆転電位は上昇するが,さらに収縮の立上り速度の上昇,頂点時間の延長などの変化の所見から低一温ではI<SUB>Ca</SUB>による張力発生が主役を果すと考えられた.7.また矩形波脱分極と発生張力の関係から,冷却は膜電位一張力曲線を過分極側に移行せしめるとともに.収縮張力発生の閾値,張力飽和の飽和電位も過分極側へ移行することが認められた.8.以上の所見から,低温はおそらく膜結合のCaを増加し,これが膜抵抗, I<SUB>Ca</SUB>の増大をもたらし, I<SUB>Ca</SUB>の増大は単収縮張力を増強するという変力機構の存在に加えて,他方,膜抵枕の増大,外向きのI<SUB>K1</SUB>,I<SUB>X1</SUB>電流の抑制はいずれも活動電位の持続を延一長し,さらに収縮張力の増強をもたらすという2重の変力機構があることが結論された.