著者
新井 治美 川原 延夫 上島 国利 福田 和夫
出版者
杏林医学会
雑誌
杏林医学会雑誌 (ISSN:03685829)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.23-29, 1981-03-30 (Released:2017-02-13)

最近5年間に杏林大学および三恵病院に入院し, 宗教を主題とした妄想が認められた20名の精神分裂病者について, 現代日本の社会宗教的状況を考慮に入れつつ検討を加えた。20名を信者グループと非信者グループに分けると前者では急性に発症し, 妄想も一過性であるのに対し, 後者では慢性の経過をたどり, 妄想も持続する傾向が認められた。そこで前者のようなタイプを急性型, 後者を慢性型とし, 後者についてはさらに宗教的妄想以外の妄想の有無に従い単一型と併存型に分けた。急性型の多くは憑依状態を呈し, 憑いたとされる対象は多岐にわたっていた。神という言葉でいろいろな宗教的対象が表現されていて, それを教派別にみると新宗教がもっとも多く, キリスト教がついで多かった。慢性型においては宗教は患者にとってそれほど重要な意味は持たないが, 急性型においては宗教に対する患者のかかわり方は全人格的であるという傾向が認められた。
著者
新井 治美
出版者
杏林医学会
雑誌
杏林医学会雑誌 (ISSN:03685829)
巻号頁・発行日
vol.14, no.3, pp.303-313, 1983-09-30 (Released:2017-02-13)

35例の病的宗教体験を示した症例を通じて, 精神病理現象としての宗教体験の現代日本における物質について研究を行なった。対象となった患者は杏林大学精神神経科および他の3つの病院に入院または外来通院したものである。その結果, 現代日本における特徴である宗教の多様性と新宗教の抬頭という現象が対象例に反映されていた。また診断名に関しては精神分裂症32例, 心因反応2例, 非定型精神病1例であり, 男女比は男11例, 女24例であった。状態像についてみると錯乱と憑依を呈した症例が多数を占めたが, そのうち憑依現象は12例と多く, わが国における病的宗教体験のひとつの特徴と考えられた。また現代日本において病的宗教体験が出現する際にはその民族の心性に結びつくような基本的な内容が露出する可能性が強いと考えられた。