著者
方 欣
出版者
浜松医科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

視床下核への脳深部電気刺激術(STN-DBS)の機序を解明するために、MPTPサルパーキンソン氏病モデルにおける分子イメージング研究を行った。サルは、MPTP注射を受け、パーキンソン氏病モデルを作成し、刺激電極留置手術後、行動判定テストでSTN-DBSの効果を確認した。これらのサル(3頭)において、H_2^<15>Oを用いて、サル脳血流の変化を測定した。STN-DBS施行中の、脳血流をPETで測定した結果は、STN-DBS側の運動野、補助運動野、上頭頂葉、視床、と対側の小脳の血流増加であった。次に、有効な電気刺激(刺激頻度145HZ、持続時間60μs、電圧2.8v)又は手運動における、サルのドパミンD^2受容体の変化を、MNPAを用いて測定した。STN-DBS対側の淡蒼球、尾状核の一部におけるMNPAの取り込みが高くなり、前帯状回と刺激側のLIP野の一部では低くなった。これらの結果によって、STN-DBSはパーキンソン病における視床下核の過興奮を抑制し、引き続いて視床を過抑制の状態から解放し、視床から投射している運動野、補助運動野、及び対側の小脳半球等運動相関神経回路を活性化し、パーキンソン氏病モデル動物の運動能力を高めることが推測される。更に、パーキンソン氏病の病態生理として、ドパミン神経の減少に伴い、pre-synaptic dopamine transporter (DAT)およびD^2受容体のdynamicな変化は、STN-DBSの効果に影響する可能性がある。そこで、線条体破壊モデルラットとMFB破壊モデルラットを用いて、DATとpost-synaptic D^2 receptorを反映する放射性トレーサーを使用して、DAT及びD^2受容体の変化パターンを研究した。結果として、ドパミンのreuptake inhibitorであるD-amphetamineによる回転運動とDATを反映する[11C]CFTの取り込みは線条体破壊でもMFB破壊でもほぼ同様の変化がみられ、いずれのモデルでも強度は違うがpre-synaptic機能は障害されているものと考えられた。一方、D^2受容体のagonistであるbromocriptineによる回転運動とD^2受容体トレーサーの取り込みは、線条体破壊とMFB破壊では正反対であり、post-synaptic D^2受容体機能は線条体破壊ではdown-regulateされ、MFB破壊ではup-regulateされているものと考えられた。パーキンソン氏病においては、初期には黒質のドパミン神経の脱落に伴い、線条体におけるpost-synaptic機能はup-regulateされていると考えられており、MFB破壊モデルはこの状態に類似している。一方、線条体の虚血などによって引き起こされるパーキンソン症候群においては線条体のpre-およびpost-synaptic機能の両方が障害されており、線条体破壊モデルはこの状態に類似する。このような違いはパーキンソン病モデルラットを用いる研究において十分に考慮される必要がある。