著者
日高,杏子
出版者
日本色彩学会
雑誌
日本色彩学会誌
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, 2000-03-01

この論文は色彩文化史の視点から、17世紀初頭の染織品に用いられた金と銀を追究する。方法論として3つの視点から考察する。まず、一時的消費を論じるために演劇のための衣裳を考察する。第二に、恒久的消費を論じるために、英国国教会の地域教会への寄贈染織装飾品を考察する。最後に、個人的消費を鑑みるために、家庭内における染織品を考察する。金・銀の色彩を身につけることは、普遍的ともいえる高い社会地位を表現するための身体言語である。ローマ・カトリック教会の一元支配と封建社会にあっては、金糸銀糸の使用は主にカトリックの司祭と封建国王に独占されていた。しかし宗教改革後、西ヨーロッパの社会構造は変化し、金糸銀糸の消費はより拡大した。権威を表象するための金と銀の消費は、イングランドの王族のみならず、中上流階級もまた金銀を染織用に用い始めた。結果的に異なる社会階層間に軋轢が起こり、それは奢侈禁止令の発令のきっかけとなった。金糸銀糸の消費量は、ゆえに消費者の社会地位に正比例していたと考えられる。ルネサンス運動や宗教改革運動の思想的な波及を鑑みながら、ケーススタディを通じてこの消費の主題を分析する。