著者
早川 武敏
出版者
THE JAPANESE SOCIETY OF CHILD NEUROLOGY
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.12, no.4, pp.308-328, 1980

小児てんかん患児のstatus発症頻度を知る目的で, 昭和52年10月より同53年9月までの一年間に当科を初診したてんかん患児348例, およびけいれん重延状態急性期の臨床像検討の目的で昭和50年1月より昭和53年10月までにけいれん重延状態を主訴とし当科に入院した患児67例, さらに小児てんかん重延状態の比較的長期予後, またはてんかん重延状態をくりかえしやすい患児の特性を検討するため, 昭和49年以前にてんかん重延状態で入院し, その後, 自発的に当科外来通院中のてんかん患児32例を対象に調査し次の結果を得た.<BR>1. 小児のてんかん患児におけるてんかん重延状態の頻度は8%で, 男女差はなかったが, 精神運動発達障害のある群は精神運動発達正常群に比べ2~3倍の頻度を示した.<BR>2. 小児てんかん重延状態の発作型は全身性強直間代性けいれん, 一側間代性けいれんが主体をなし, 25%の症例はstatusで発症した.status以前のてんかん発作型との比較では, 前者ではStatuSで発症又は全身性けいれんを示すのが多いのに比べ, 後者ではStatUSで発症または一側性, 焦点性けいれんが多く, 時に全身性けいれんがみられた.<BR>3. 小児けいれん重延状態の原因はてんかんが多く, 続いて脳炎, 脳症であるが, 脳腫瘍はまれであった.<BR>4. 小児けいれん重延状態の治療はジアゼパムが第一選択薬であるが, ジアゼパム無効例は (1).statusの原因. (2).個体の基礎疾患. (3).statusの発作型に関連を求められる.<BR>ジアゼパム有効量は大部分0.3~0.5mg/kgに含まれるが, 効果不十分な場合, 全身状態に注意して1.0mg/kgまで増量すべきである.<BR>5. Statusの内容, 種類により,<BR>A群: 持続性けいれん<BR>B群: 頻回にくりかえすけいれん発作<BR>C群: A群とB群が同程度にみられる群に分類すると, 頻度はA群に多く, 年齢はA, B群で差をみない.原因別では各群にてんかんが多いが, C群ではてんかん以外の症例の頻度がやや高い.A, B群間では原因不明, 症候性てんかんの頻度に差はなかった.発作型はA群では一側間代性けいれん, B群では全身強直間代性けいれん, 全身強直性けいれんが多かった.けいれん持続時間はA群では2時間以内が多く, B, C群では長時間例が半数を占めた.ジアゼパム効果はA群で良好であるのに比しB, C群では効果が劣った.<BR>6.小児のけいれん重延状態の予後を規定する因子はその原因, 発症年齢, けいれん持続時間, 急性期治療効果の良否, statusの種類等があげられる.てんかん重延状態による障害は56%にみられたが, 一過性障害が多く (43%), 恒久的障害を示した症例は13%であった.<BR>7. てんかん重延状態をくりかえしやすい小児は初回のstatus以前より精神運動発達の遅れを示すものが多く, statusをくりかえしやすい要因として, 一側脳半球の障害またはdiffuse cortico-centrencephalic damageを推測した.<BR>8. てんかん児においてstatusをおこしやすい患児の特性を知り, 有効血中濃度を目標に抗けいれん剤の調整が必要である.