- 著者
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有友 愛子
- 出版者
- 日本家庭科教育学会
- 雑誌
- 日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
- 巻号頁・発行日
- vol.55, 2012
【目的】調理実習は生徒が楽しみにしている学習のひとつであり、意欲的に学習に取り組む様子がみられる。学んだ知識や技術の習得に向け、自らの学びをもとに生活場面での実践の積み重ねを視野に入れた指導を心掛けている。そこで、生活場面の実践における目標達成の手だてのひとつとして、レシピカードと調理場面の動画に着目したデジタルポートフォリオの活用について検討を行うことにした。レシピカードは、調理方法を示したスライド形式のカードであり、実習を通して得た調理のポイントや今後の課題等を言葉や図で書き加えることにより、生徒一人一人がオリジナルのレシピカードとして活用することができる。レシピカードの作成と活用により、論理的思考や生活の課題を解決する能力を育む視点を充実させ、知識・技術の習得につなげたいと考えている。【方法】中学部生徒を対象に、家庭科の授業でデジタルポートフォリオを活用し、調理実習を実施した。献立は、「筑波定食」として主食・汁物・副菜を固定し繰り返し取り組ませ、主菜を実習ごとに変えた。レシピカードはプレゼンテーションソフトで作成し、デジタルポートフォリオとして電子黒板やタブレットPC上で活用した。タブレットPCは生徒が1人1台使用し、デジタルポートフォリオにはレシピカードや調理場面の動画、生徒が撮影した静止画や動画、デジタルノートの記録等を盛り込んだ。デジタルポートフォリオの実習時の活用の様子、レシピカードに書き加えられた記内容、自己評価や質問紙による調査等から検討を行った。【結果】調理実習の際、デジタルポートフォリオとしてレシピカードと動画を併せてタブレットPC上で活用させたところ、役割分担を相談する、作り方を確認しながら調理を進める、友達や教員から説明を受ける等の場面で活用する様子がみられた。生徒の自己評価の結果から、「調理技能」、「調理手順」の自己評価の高まりがみられ、特に「調理手順」については、1回目と3回目の実習での高まりが顕著であった。確認が曖昧だったり、わかったつもりで作業を進めたりしたことで思い通りに仕上げることができなかった実習の後、次回の実習に向けての課題として「レシピカードや動画などでよく確認する。」、「作業の間にレシピカードや動画を見て、何が必要か、準備はできているか、注意することは何かを確認する。」等の記述がみられ、レシピカードや動画を知識・技術の習得のために活用しようとする意欲がみられた。調理実習直後に学習プリント形式のレシピカードに書き込んだ内容を元にレシピカード作りに取り組ませたところ、ほとんどの生徒がデジタルポートフォリオの中から調理場面の動画を選んで視聴し、作り方を再確認した上で書き加える内容の整理や拡充に取り組む様子がみられた。書き込まれた内容には、「お湯の色が緑っぽくなってきたり、ブロッコリーがくるくる回り出したりしたら、そろそろザルにあげても大丈夫。香りにも注目。」、「火加減に注意。あまり強くしない方がいいよ。切り身に火が通り、周りが少し白っぽいくらいが裏返す合図。」等の記述がみられた。完成したレシピカードに書き込まれた内容から、体験を通して学んだ知識・技術について具体的に内容を深めて行くことができた。また、レシピカード作成の際、教員が思考の整理をさせたり、考えを深めさせたりする場面において、書き込まれた内容が生徒それぞれの思考や理解の状況を把握する材料のひとつとなった。レシピカードの作成により生徒の調理に関する思考力の高まりがみられた。デジタルポートフォリオとしてレシピカードと調理場面の動画を併せて活用することで、学習活動において様々な相乗効果がみられた。レシピカードをはじめとした生徒の学習の過程をデジタルポートフォリオとして蓄積することにより、生徒の知識・技術の習得や家庭での実践による課題を解決する能力をはぐくむ視点の充実につなげることができるのではないだろうか。今後はデジタルポートフォリオの内容の充実や情報の共有化等による活用の検討を進めて行きたい。